第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

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 ***  時間は残酷なほど、きちんと流れる。冬が終わって桜の咲く時季になった。  勇矢が独り暮らしを始めて三回目の春だ。  今年も出勤時に少しの遠回りだ。白にも見える淡いピンクの花が、爛漫(らんまん)という表現どおりに咲き誇っている。  少し(まぶ)しそうに勇矢は満開の桜の花を眺めた。  もうじき紘基は幼稚園に入る。入園式にはかすみと一緒に行く予定だ。父親代わりになるという直弥の約束は(おぼ)えている。  一番願っているだろう希望は、まだ(かな)えられそうにない。  かすみは直弥のいない事実を、きちんと受け止められていない。仕事と紘基の存在があるから、毎日をなんとか過ごせているのだろう。  そんな彼女に、勇矢の想いを受け入れる余裕がないのは分かる。  今は見守るだけと思い、勇矢はかすみの傍にいた。
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