第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

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 早恵の妊娠は順調と聞き、改めて安心した勇矢に、遼雅が言いづらそうに話しかけてきた。  「勇矢……一年前、直弥と何を約束したんだ?  かすみちゃんたちといる程度のこととは思えない。あの子は最後に何を頼んだんだ?」  一瞬、話しそうになった。  だが、今もかすみは傷ついている。法事の時の涙に濡れた表情を見れば、直弥を(うしな)った心の傷はいまだに大きいだろう。そんな彼女に、直弥と約束したことを言えない。  本人以外にはもっと話せない。勇矢は首を振った。  「それはちょっと……今はまだ(かな)いそうにないから。絶対に守るって約束したけど、どうなるかは」  約束の実現はまだ先と認識した二人は、それ以上、内容を聞こうとはしなかった。  「時期が来たら、約束は果たすんだよね」  遼雅の問いかけに、勇矢は複雑な表情で頷いた。  「俺はそのつもりだけど、叶うかどうかは……」
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