第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

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 ***  「いらっしゃい。この景色久しぶりじゃない?」  勇矢は同じマンションに住み続けている。実家へいずれ帰るので、引っ越す必要を感じなかった。  「ああ……こんな景色でしたね。一年もいなかったから、すごく新鮮に見えます」  かすみは懐かしさも含まれる声で窓の外を見ている。冬なので、窓から見える景色は寒そうだ。  「ホットレモネード飲まない?」  ビタミン摂取を考えて、家政婦が常備してくれている。熱湯を入れるだけなので勇矢でも作れる。かすみが好きだと知った時から、勇矢も好んで飲むようになった。  かすみは頷いて、カップを受け取った。  「あ、この絵……まだ飾ってるんですか。恥ずかしいです。外してくださいよ」  勇矢は笑顔のままだったが、頼みは断った。  「駄目だね。かすみちゃんが新しい絵を描いてくれるなら、交換してもいいけど」  「それは……」  直弥を(うしな)ってから、かすみは絵を描いていない。勇矢も知っている。
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