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「分かってる。直弥がいなくなってから描いてないの。責めてないから。
でも……直弥はきっと、かすみちゃんにたくさん絵を描いてほしいって願ってるはずだよ」
言うと、かすみは沈んだまま頷いた。勇矢は静かに歩み寄って、かすみを軽く抱き締めた。
「直弥さんならそう言うと思います。でも、描けないんです。もう、直弥さんが見ることはないんだって思うと……」
直弥と会ってから、かすみは彼に見せるために絵を描いていたのだろう。喜んでくれる夫がいない今、彼女が何も描けないのは当然かもしれない。
それでも、勇矢は絵を描いてほしいと願った。
「直弥だけじゃなくて、俺やみんなもかすみちゃんの絵、見たいって思ってる。難しいのは分かってるよ。でも、そう思ってるのは分かって」
勇矢の言葉に、かすみは無理に笑みを浮かべた。
「勇矢さん、優しすぎます。紘基の父親代わりも……
私、甘えてばかりで申し訳ないんです」
遠慮がちなかすみを見て、勇矢はもう我慢できなかった。
拒絶されてもいい。彼は、自分の想いを彼女に伝えたかった。
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