第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

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 「俺は、直弥を愛してる君を想ってた。右の胸が直弥のものなら、俺は左を選ぶ。  かすみちゃん。直弥は君の中で生きてる。そして俺は、直弥を含めて君を愛してるんだ」  「勇矢さん……」  勇矢は静かにブラウスを拾うと、かすみの肩に掛けて肌を隠した。  「俺は受け入れられる。直弥がそこまで君を愛したと知って嬉しいよ。あいつは本当に愛する女性に出会えたんだってね。  だから俺は受け入れられるんだ。直弥の思い出と一緒に生きていきたい。君と紘基と三人で」  「いいんですか?直弥さんを忘れなくても……」  少し茫然(ぼうぜん)としたかすみの言葉に、勇矢は微笑んだ。  「俺だってずっと直弥を(おぼ)えてる。二人にも直弥を忘れないでほしいんだ。本当にそう願ってる。  直弥はこれからも俺たちと一緒だ」  ためらう雰囲気のかすみだったが、勇矢の傍からは離れなかった。  「勇矢さん……私……直弥さんだけと思ってたのに……」  そんな彼女を愛していると、勇矢は伝えたかった。  「分かってるよ。かすみちゃんがどれだけ直弥を想ってたか、誰も疑ってないって。  でも、ほんの少しでいい。俺のいる場所を作ってほしいんだ」
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