第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

23/42
前へ
/202ページ
次へ
 ***  「やっぱりね……そんな気がしてたよ。  かすみちゃんは勇矢をすごく頼ってたからね。いいと思うよ。きっと直弥も喜ぶはずだから」  勇矢はかすみと本家を訪れた。かすみは本家に住んでいる。最初に挨拶に行くのは当然だ。  勇矢の言葉を聞いた遼雅は、(かす)かに苦笑しながら言ってきた。  彼は、弟と従弟(いとこ)の約束が、かすみと勇矢の結婚と気づいただろう。だが、何も言わなかった。  「勇矢が本気なのは()くまでもないけど、かすみちゃんもいいんだね」  近所に家を建てた翔真家族も同席している。勇矢からの連絡を受けて知らせたようだ。彼の確認にかすみはためらわずに頷いた。  「はい。勇矢さんが傍にいてくれて、私や紘基のために何かをしてくれるのを見てるうちに……  でも、そう思うたびに、直弥さんに申し訳なくて」  直弥への想いが、勇矢に対する感情を(おさ)えていたと分かる。  「かすみさん。今も直弥を想ってくださってありがとう。でも、もう七回忌も済んだわ。これからは貴女の幸せを求めてもいいのよ。  私たち、かすみさんと暮らせて嬉しかったから、(しば)る形になってしまったと思っているの。ごめんなさいね。  でも、紘基や貴女とずっと一緒にいたくて……」  直弥の母親の言葉に、勇矢は首を振った。
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1608人が本棚に入れています
本棚に追加