第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

25/42
前へ
/202ページ
次へ
 「どの辺りにするつもりなんだ」  「この近くにする予定。  ところで、直弥の遺品ってまだあるよね」  建てる地区を(たず)ねられたのに、逆に直弥の遺品の有無を確認してきた。全員が不思議そうだ。  「俺、直弥から聞いてたんだ。かすみちゃんたちと住む家を設計してるって。少しずつ書いてるって言ってた。  どこかに残ってるはずなんだけど……直弥の夢を(かな)えたいってね」  かすみは驚いている。初めて聞いたのだろう。だが、彼女の驚きの意味は違った。  「勇矢さんに話してたんですか。  手術の前に直弥さん、言ってくれたんです。完治したらここを出て、自分たちの家を建てようって。その設計は自分がするからって……」  ここでかすみの声がつまった。手術前なら希望を持っていた頃だ。二人の会話は幸せな響きを持っていたはず。そのことを思い出したのだろう。  直弥の、その願いは叶わなかった。だが、基本設計はできているはず。  従兄(いとこ)の願いを叶えたいと勇矢は思った。身代わりではない。自分の意志で望んでいるのだ。  利光たちは直弥の計画を知らないから、相当驚いている。  「直弥に関するものはすべて保管している。だが、中を確認したことはない。だから、私たちも何がどこに入っているか。  勇矢に頼んでいいだろうか」  パソコンか記録媒体(ばいたい)にデータは入っているはずだ。データ探索に、勇矢以上の適任者は霧山一族の中にはいない。
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1608人が本棚に入れています
本棚に追加