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「どの辺りにするつもりなんだ」
「この近くにする予定。
ところで、直弥の遺品ってまだあるよね」
建てる地区を尋ねられたのに、逆に直弥の遺品の有無を確認してきた。全員が不思議そうだ。
「俺、直弥から聞いてたんだ。かすみちゃんたちと住む家を設計してるって。少しずつ書いてるって言ってた。
どこかに残ってるはずなんだけど……直弥の夢を叶えたいってね」
かすみは驚いている。初めて聞いたのだろう。だが、彼女の驚きの意味は違った。
「勇矢さんに話してたんですか。
手術の前に直弥さん、言ってくれたんです。完治したらここを出て、自分たちの家を建てようって。その設計は自分がするからって……」
ここでかすみの声がつまった。手術前なら希望を持っていた頃だ。二人の会話は幸せな響きを持っていたはず。そのことを思い出したのだろう。
直弥の、その願いは叶わなかった。だが、基本設計はできているはず。
従兄の願いを叶えたいと勇矢は思った。身代わりではない。自分の意志で望んでいるのだ。
利光たちは直弥の計画を知らないから、相当驚いている。
「直弥に関するものはすべて保管している。だが、中を確認したことはない。だから、私たちも何がどこに入っているか。
勇矢に頼んでいいだろうか」
パソコンか記録媒体にデータは入っているはずだ。データ探索に、勇矢以上の適任者は霧山一族の中にはいない。
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