第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

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 「分かりました。後でゆっくり」  設計図が未完成でも問題ない。その図面をベースに、霧山建設の設計部に完成させればいい。  「それと……家ができたら、ヒマワリとコスモスを植えたいので、ここの花を分けてほしいんです」  「勇矢さん……」  かすみも初めて知る勇矢の希望だ。驚くかすみに頷いた。  遠い昔、直弥と一緒に植えたヒマワリ。  従兄(いとこ)は妻に、当時の話を再発の入院中に話した。そのことをかすみが尚子(しょうこ)に教えると、伯母は庭師に種を保管するように指示したと勇矢は聞いている。  次の年の夏、そのヒマワリは本家の庭に、今までよりも(はる)かに多い花を咲かせた。直弥の最後の夏を輝かせるように……  そして、そのヒマワリを囲むように、かすみが、直弥と紘基と一緒にコスモスの種を()いたと教わったのは、翔真の結婚式の後、それほど()たない頃だった。  ヒマワリと交代するように花開いたコスモスは、直弥と妻子の大切な思い出だ。置いていきたくなかった。
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