第五章 すべてを包む愛-針葉樹の森のように

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 さすがに、挨拶が終われば少しは落ちつく。  「いつ、結婚式をするの?」  「半年くらい先かな。さすがに、それ以上早くは無理だろうから」  婚約期間と思えばいい程度の長さだ。家族に近い関係だったので、交際が必要ない。互いに早く本当の家族になりたいと望んでいるので、それ以上の期間は置きたくなかった。  「規模はどうするつもりだ」  英志は霧山当主の弟だが、淑子(よしこ)も名門の出身だ。政治家一族の娘なので、本家の尚子(しょうこ)よりも格が上と認識する者も存在する。  貴和の気位の高さも、母親の実家と関係あるだろう。  もっとも、母親は典型的なお嬢さまで野心は皆無。次男の妻に相応(ふさわ)しいと思う。  だが、規模を大きくすると、招待したくない者にも出席を望まないとならない。  かすみは再婚だ。しかも、一度目は本家の三男。彼の息子もいる。  その女性との結婚となると、霧山の後継絡みだと、的外れな憶測を持つ人間も出ても不思議ではない。というより出るだろう。  祝福よりも噂を好む者たちを招待したくない。そうなると、直弥のように、家族だけの挙式がいいと考えていた。  「わがままだけど小さくしたい。家族だけかな」  勇矢の所属していたキリヤマ・ソフトウェア・アンド・マネージメントは、個人主義が強いので、幹部の結婚でも決して規模は大きくない。彼も同じ考えを持っていた。
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