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二度目の出産といっても、かすみが紘基を生んだのは十年も前。どのくらい覚えているのか勇矢には分からない。
だが、陣痛の間隔が短くなると、こらえきれない小さな悲鳴に近い声がかすみから零れた。
かすみの傍にいる勇矢と紘基は真っ青だ。子供の紘基はともかく、勇矢も出産の立ち会いは初めてだ。話には聞いていても実際に見ると、動揺するのは避けられない。
だが、かすみは痛みは強くても勇矢を気づかう余裕があった。気がかりがなくなったからだろう。
「……勇矢さん、こうしてくれます?」
かすみは勇矢の手をしっかりと握った。痛みの強さを感じながら、勇矢は頷いて握り返した。
「ああ、もちろんだ。ずっと傍にいるから」
出産がかなり進んだと言われて、かすみと一緒に分娩室に移った。勇矢以外は特別室で待っている。
分娩室では、医師や助産師、看護師が忙しく動いている。
ドラマで見る光景に似ているが、実際は激しい鼓動の中だから、確認する余裕などない。勇矢はかすみの手を握るしかできなかった。
痛みのたびに握る手の強さを感じて、勇矢は出産の現実を知った。こんなに苦しい思いをしないと生まれないのかと。
「かすみ、ごめんな。こんなに大変な思いをさせて……」
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