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「かすみ、疲れただろ。ゆっくり休んでくれ」
出産前には不穏当なやりとりもあったが、勇矢はかすみに穏やかに言っていた。
「勇矢パパの言うとおりだよ。お母さん、痛いの我慢して大変だったんだから。さくらのことは、僕と勇矢パパで見てるから安心して」
紘基の言葉に大人たちが笑った。
全員子育ての経験がある。初めての勇矢にしても、かすみと直弥の育児を傍で見たので苦労は知っている。だが、可愛い言葉に、周りは微笑ましさを感じているようだ。
「ありがとう、お兄さん。偉いわ。お母さん、すごく嬉しい」
かすみの言葉に紘基は胸を張った。
「そうだよ。僕、お兄さんなんだから。さくらの面倒一緒に見るんだ」
直弥の少年の頃にそっくりな笑みを紘基は浮かべて、勇矢は胸が痛くなった。
従兄は世を去って、この子の成長を見ることは叶わなかった。代わりに、勇矢が紘基を見守って成長を喜んでいる。
彼は、虹の向こうにいる直弥へ、心の中で呼びかけた。
(直弥……紘基は、おまえの息子は、おまえにそっくりだよ。優しくて思いやりがあって……)
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