番外編 第二章 家族の時間-雪解けを告げる花

18/25
前へ
/202ページ
次へ
 ***  「かすみ、疲れただろ。ゆっくり休んでくれ」  出産前には不穏当なやりとりもあったが、勇矢はかすみに穏やかに言っていた。  「勇矢パパの言うとおりだよ。お母さん、痛いの我慢して大変だったんだから。さくらのことは、僕と勇矢パパで見てるから安心して」  紘基の言葉に大人たちが笑った。  全員子育ての経験がある。初めての勇矢にしても、かすみと直弥の育児を傍で見たので苦労は知っている。だが、可愛い言葉に、周りは微笑ましさを感じているようだ。  「ありがとう、お兄さん。偉いわ。お母さん、すごく嬉しい」  かすみの言葉に紘基は胸を張った。  「そうだよ。僕、お兄さんなんだから。さくらの面倒一緒に見るんだ」  直弥の少年の頃にそっくりな笑みを紘基は浮かべて、勇矢は胸が痛くなった。  従兄(いとこ)は世を去って、この子の成長を見ることは(かな)わなかった。代わりに、勇矢が紘基を見守って成長を喜んでいる。  彼は、虹の向こうにいる直弥へ、心の中で呼びかけた。  (直弥……紘基は、おまえの息子は、おまえにそっくりだよ。優しくて思いやりがあって……)
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1607人が本棚に入れています
本棚に追加