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和やかな空気が緊張に似た雰囲気に変わったのは、二人の男性が特別室を訪れたからだ。
貴和の夫の慎一と息子の将貴だ。
二人は、まず生まれたさくらの傍に来た。将貴には従妹になる。眠るさくらを見る将貴の瞳は優しかった。
「叔父さん、叔母さん、おめでとう。すごく可愛い。僕の子供くらいになるから余計に可愛いな」
今年、将貴は二十二歳になる。確かに娘といっても通じるほど離れている。
「そういえばそうだな。どうなんだ。予定はあるのか?」
大学生の甥に笑いながら確かめると、将貴も笑って首を振った。
「まだ早いよ。院に行くから今は勉強だけだよ」
優秀な将貴は、直登を支える人材になると期待されている。
貴和が霧山グループの後継と言ったのも当然だ。本人は霧山建設を望んでいて専攻も建築だ。
その希望は、勇矢たちに複雑な感慨を抱かせた。
直弥が闘病中、彼らは将貴の将来について話したことがあった。もちろん将貴は知らない。
だが青年は、周りが望んだように建築家を目指した。それは複雑だが喜ばしいことなのだろう。
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