第一章 満開のヒマワリ-真夏の思い出

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 一年ほど前、二人は祖父に連れられて、隣りの県へ遊びに行った。着いた場所には広いヒマワリ畑があり、二人は大喜びで花の間を走り回った。  少年たちの住む家は大きいが、咲いている花は、バラやクレマチスという植物だ。母親たちは気に入っているが、二人はそれほど好きではない。  特にバラは近づくと(とげ)が痛くて、どうして、たくさん植えているかまったく分からない。  そんな少年たちの目に、鮮やかな黄色に輝くヒマワリは、太陽のように思えて欲しくなっていた。  「おじいさま、ヒマワリ畑もらえないの?」  子供らしい希望だが、相手が霧山(きりやま)商事前社長では冗談にならない。だが祖父は、広大な花畑を(なが)めながら、孫に言い聞かせるように話しだした。 「花というのは、種を植えて、水や肥料をやったりして世話が大変なんだ。その苦労をして咲いた花を、欲しいと簡単に言っては駄目だ。  どうしても欲しいなら、自分で世話ができるようになってからだな」  祖父の言葉は少年たちには難しかったが、作る人は苦労しているというのは理解できたようだ。  「自分で育てたら、僕たちのヒマワリになるの?」  従兄(いとこ)の問いかけに、祖父は笑顔で頭を撫でてきた。  「ああ。きちんと世話をしたら、自分のだと威張(いば)っていい。だが、簡単にはいかないぞ。面倒だと投げだしたら枯れるかもしれない。二人はできるか?」  「うん。絶対できる。直弥(なおや)と一緒に世話する。そしたら、こんなに広いヒマワリ畑になる?」  「そうだな。たくさん植えれば、たくさん咲くだろうな」
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