第三章 秘めた想い-深緑の木漏れ日

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 「言っていいことと悪いことの区別もつかないのか?  彼女がそんな程度の女なら、姉さんは、生まれはいいけど下品極まりない女に育った欠陥品だ!  これ以上、直弥の奥さんの悪口を言うな!  それに、鷹也(たかや)誹謗(ひぼう)(ゆる)さないからな。聞きたくないし、話すあんたを姉さんとも思いたくない。  こんな奴が自分の姉なんだから、まったくどんな冗談だ!」  言い放つと勇矢はリビングを出た。姉の甲高い声が聞こえてきたが、騒音と同じだ。弟は無視をした。  姉がヒステリーを起こすと分かって言っている。だが、父親の異母弟に当たる鷹也のことは割と気に入っている。誹謗は赦せない。  貴和は、いつも自分を本家の人間と言うが、この家は分家になる。しかも、姉は別の家に嫁いでいる。なので、霧山本家の後継者としては、将貴は、叔父になる勇矢よりも順位は低い。  もし、姉の言うことが通るなら、伯母……勇矢の父親の姉に当たる双子の女性たちの孫も該当者になる。彼女たちの孫には、将貴よりも年上の少年も存在する。  そうなれば、後継問題は複雑になって収拾(しゅうしゅう)がつかなくなるのは間違いない。霧山グループは大きく揺らぐだろう。  遼雅がそのことを分からないはずはない。一族を分裂させないためにも、彼が子供を持つ以外の選択肢はない。当主の義務とはいえ気の毒には思う……  そんな、勇矢でも分かる事情を姉は理解もしていない。しかも、自分の息子と言っているが、彼女は育児をしなかった。ベビーシッターとナニーが将貴を育てたといっていい。  何が自分の子供だと、姉が騒ぐたびに、弟の勇矢はいつも()めた視線を向けている。  さらに貴和は、慈善活動に熱心な母親たちとは違い、自分の贅沢以外で金を使わない。本当に霧山一族の女かと思ってしまう。  他家に(とつ)いだ伯母たちでさえ、最低限の慈善活動はしている。
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