第三章 秘めた想い-深緑の木漏れ日

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 そこまで考えた勇矢は自嘲(じちょう)めいた笑みを浮かべた。  彼にしても、姉を叱責(しっせき)できるほど素晴らしい人間とは到底言えなかった。  姉と同じくかすみを誹謗(ひぼう)した……そして、指摘されたように、遊んでばかりで何かに本気で取り組んだこともない。  翔真は遊び好きとはいっても、業務に真剣に取り組んでいる。なので、グループ内での信頼は厚い。  しかし、今の勇矢は過去の彼とは別人だ。かすみを知ったことで、恥ずかしくない人間になろうとしている。  愛情は不可能でも、友愛と尊敬は得たい。  そんな思いで真剣に業務に向き合うようになった勇矢に、貴和の暴言は到底認められない。彼は、しばらく自宅には寝るためだけに帰ることにしようと思った。  幸い、直弥たちはいつも歓迎してくれる。そして、大学時代の親友二人も、行けば喜んでくれる。  少ない交友だが、結びつきは強いと思っている。本心を話せる相手が多い必要は、勇矢にはなかった。
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