第三章 秘めた想い-深緑の木漏れ日

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 「それなら、英志(えいじ)さんのマンションは?  家賃いらないから」  霧山本家に近い人間ほど不動産所有が減っていく。当主の利光でも、マンションを数棟と別荘だけ。  前当主の宗一(そういち)-勇矢の祖父は、不動産をかなり処分している。認知できなかった末息子のためだ。  不倫でもないのに一族のほとんどから反対されて、再婚どころか認知すら不可能だった。  そんな息子に少しでも財産を(のこ)したい。それには、不動産という相続しても維持が大変な資産よりも、預貯金にしたいという考えからだった。  なので、次男の英志-勇矢の父親も不動産はマンション一棟のみ。勇矢は別荘を相続したが、一年に一度くらいしか行っていない。  だが、親のマンションなら貴和と変わらない。勇矢は拒否した。  「いや、父さんのマンションだと今と変わらないから、どっか探すよ。  それまでホテルにでもいるから。リラッサンテかな。会社に近くて便利だし」  それから間もなく、勇矢はリラッサンテ・キリヤマの住民となっている。実家に住所を置いているので何も心配はない。  ホテル住まいに慣れた頃、直弥たちが、かすみの出産後、本家の離れに引っ越すと知った。今の賃貸マンションを引き払うわけだ。  彼女が住んでいた場所に住みたいと、勇矢は聞いた時に思った。
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