第四章 届かぬ願い、拒めない約束-虹の向こうの国

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 勇矢(ゆうや)とかすみが初めて会ってから、二年半の月日が流れた。  その間に遼雅(りょうが)が婚約した。取引先の社長令嬢が相手だ。そのことは一族を安堵(あんど)させた。直弥(なおや)の子供が後継者となる可能性は皆無になったからだ。  そして翔真(しょうま)も交際。年齢差はともかく、グループに勤めていた女性だったので、こちらも安心を呼んだようだ。  なので、かすみに対する誹謗(ひぼう)は少なくなった。彼女が控え目で、グループの経営に介入する可能性がまったくないと知られたのも大きい。  逆に、直弥との夫婦仲の良さがグループ内で知られるようになり、状況はともかく、仲睦まじさに憧れる社員が出始めたのは勇矢も実感していた。  安心した。直弥たちには、グループのトップ間の微妙な関係や勢力争いには無関係でいてほしい。  そんな穏やかな時間を止める、信じられない連絡を勇矢は受けた。  「え……入院?」  直弥が再発……  嘘だと思いたかった。五年が過ぎれば大丈夫だと聞いている。その五年はまだ三年も先……再発の可能性は聞かされたが流していた。良くなるに決まっていると……  急いで業務を一段させて、勇矢は病院へ向かった。  いつもように特別室に従兄(いとこ)は入っていた。乱暴にドアを開けると、直弥は静かな表情でベッドにいた。  かすみは入院の準備なのか、紘基(ひろき)とともに不在だった。  困った表情の従兄を見ると瞳が(うる)んだ。運命を恨んだ。どうして、優しくてみんなに愛されている直弥が、こんな年齢で生命の危機になるのかと、勇矢は運命の理不尽さに怒りを感じた。
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