第一話:三日後の地球(滅亡済)

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 その日の夜は平和に過ぎた。  カップ麺を食べて、お風呂に入って、セーラー服から適当なTシャツを寝巻き代わりに着替えて、四畳半の寝室へ。  ひょっとしたら、起きたら全て元通りになっているかもしれない。  そんな淡い期待を抱きながら、私は深い眠りに身を委ねた――……。 「ハカセ、タイヘンです!」  私を眠りの世界から叩き起こしたのは、イチゴウのいい声だった。天才科学者の私が作ったのでボイスが実にグッドなのである。 「どうしたイチゴウ……でっかい声出すと近所迷惑だぞ……」 「ご近所さんどころか世界が滅んでるので大丈夫です」 「そうか……私は寝るぞ」 「ハカセ! タイヘンなんです寝ちゃダメです、ロボットが攻めて来てます!」 「なにぃ! またか!」  私は被り直しかけた布団を跳ねのけ、起き上がった。  ……ダイジェスト的に言うと。  結局、ロボットの襲撃は二回もあった。しかも二回目は早朝。  襲撃してくるロボットは多種多様だ。戦車みたいなのとか、イチゴウみたいな人型とか、怪獣型とか。  共通しているのは、いずれも戦闘用であり、イチゴウみたいに意思疎通はできず、問答無用で殺しにくることだ。  バラして解析してみたが、分かったことは特にない。ポンコツでないことは確かだ。寧ろ結構高性能。イチゴウほどじゃないけど。  なお攻めてくる方向はいずれもバラバラで、どこかから計画的に襲撃が実行させている気配はない。  そんなこんなで私の睡眠は大いに邪魔されて、二日目に目を覚ましたのは昼過ぎになってしまった。私はもともとロングスリーパーのきらいはある。  イチゴウが洗濯してアイロンをかけておいてくれたセーラー服を着て(サイズが合う服がこれしかない)、朝食……いや昼食の後、私は地下の研究所区画へと向かった。 「あのー……本当に自分の解析をするんですか?」  装甲やらの武装を外して素体状態になったイチゴウが、メンテナンス用の台に横たわっている。 「人間の脳味噌から記憶は抽出できないが、ロボットからはできるからな」 「ハカセなら、人間の脳からもいろいろ取り出せるんじゃないですか?」 「やろうと思えばできそう。でも自分の脳味噌をいじくるのは流石に勇気が要るっていうか……」  そんなことを言いつつ、私はイチゴウの失われた記憶をサルベージするべくの解析作業を始める。  が。  ものの数秒後の出来事だった。 「んぐ……」  ズキリと頭に響いたのは、そう、頭痛だ。  それもどんどん大きくなって、しまいには頭蓋骨の中に心臓でもあるんじゃないかというレベルにまで達してしまう。 「ハカセ? バビニクハカセ? だ、大丈夫ですか!?」  作業中でたくさんのコードに繋がったまま、イチゴウが慌てた様子で上体を起こす。  そんな様子すら、私は激しすぎる頭痛でロクに視認できなかった。 「クッソ頭痛い……ダメだ中止中止、イチゴウちょっと自力で片付けお願い……」  作業どころではない。私は膝を突きながらそう言った。  気絶はしなかったが頭がぐわんぐわんする。  私はイチゴウに抱えられて、寝室のセンベイ布団に横になった。 「ハカセ、あんまり無理をなさらないで下さいね……どうか根詰めすぎないように」  枕元で正座したイチゴウが、心配そうに私を覗き込んでいる。 「そうするわ……」  私は溜息のようにそう答えた。  明日から本気出す。  今日のことは、明日の自分に任せよう……。  一先ず、今はこのファッキンクソ頭痛を治さねば。  頭痛を治すには睡眠が一番だ。  ……――  襲ってくるロボット達は何なのか?  なぜ世界は滅んでいるのか?  人間はもういないのか?  なぜダンディだった私が美少女になってしまったのか?  なぜ私は記憶を失っている?  二日かかって、これらの謎はまだ一切解けていない。  だがこれ以上考え事をすると、いよいよ眠れなくなって頭痛が治らないので、私は無理に意識を静めることにした。  そして三日目。  今に至るというわけだ。  テラスでの朝食も終わり、コーヒーも飲み終えた。 「バビニクハカセー、終わりましたー」  刀を背負ったイチゴウが、割れたアスファルトを歩いて戻って来る。私はスカートを払いながら立ち上がった。 「イチゴウ行くぞ」 「どこへ?」 「ひとまずだな、この世界を探索してみようと思う。なにか手がかりはあるかもしれん。ついでに人間がいないかも探してみよう」  イチゴウの解析……については、頭痛が再発しそうな予感がしたので後回しだ。  それにまだ、この世界がどうなっているかも詳しく知らない。煮詰まった時は外を歩くに限る。  私のロボットが、ニコリと柔らかに高性能に微笑んだ。 「了解! じゃあ、お弁当作りますね!」 「ピクニックか……まあそれもいいな」  ――知らない間に滅んだらしい世界は、とても静かで。  空気を汚す要因がない風は、透き通るように緑を含んでいた。  私達の冒険が始まる。
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