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謎の惑星
そこは、地球ではなかった。
見れば、一目で分かる。空はどこまでも深い闇のように、黒く沈んでいる。今は夜なのか。印象的なのが、その一面の闇でも見える、いくつもいくつも空を突き抜けて伸びている超高層ビル群だった。
地面は真っさらな麦わら色のコンクリート(ところどころにクレーターのようなくぼみがある)で、どこまでも続いているのに、そのビル群だけ、まるで観客の前のステージに立ったかのように不自然に目立っていた。
もしここに誰かが住んでいるのならば、どうやらあれが都市だろう。
それ以外に建物はあまりない。ボロボロの道路や、今にも吹き飛びそうな住宅がぽつぽつと建っているだけだ。
有香とリティーは、それを見たとき、時が止まったかのように真顔でそれらを見ていた。
「……きれい」
ふと、リティーが呟いた。
闇の中でもよく見える茶髪のロングヘアーは、彼女の声に反応するかのようにさらさらと揺れていた。
「すごい、すごいわ!この星は!何もない荒れた荒野の上に、オアシスみたいにポツンと都市があるのね。とっても幻想的よ!ね、有香!」
「そ、そうだね」
早口でまくしたてるリティーに、有香は一拍遅れて曖昧にうなずいた。
リティーはまだ胸の奥の熱が冷めない。子犬のように尻尾を振り──が、尻尾はないから、代わりにさらさらヘアーと腕とフリルの付いたスカートを同時にブンブンブン!と揺らした。
リティーは、普通の人より少しばかり天然なところがある。いい面でも、悪い面でもだ。
この前、リティーは有香と都市に出かけに行き、高校生くらいの二人のカップルが自撮り棒で写真を撮っているのを見た。二人とも、幸せそうに人目も気にせずしゃべっている。
リティーは、自撮り棒を知らなかった。だから、何も悪気もなく、女子の方の背中をトンとたたき、言った。
「ねえねえ、そんな長い棒使ったら、手が疲れるでしょう?ほら、私が撮ってあげるから。はい、チーズ」
なんて、本当に撮ってあげていたことがある。相当相手は引きつった顔をしていたが、リティーは一つも気づかない。当然だ。
また、道ばたに黒いかたまりが落ちていた。それを見て、有香は心臓が飛び出そうになるくらい、ギョッとした。なんと死にかけのカラスだったからだ。
有香はそのまま、何事もなかったかのように通りすぎようとした。しかし、リティーはそうはさせなかった。
すぐにひょいとカラスを抱え、走って交番に向かった。「カラスも死にたくはないわ!きっと警察が何とかしてくれるはずよ」とハッハッと荒い呼吸をしながらそう言っていた。
結局、カラスは助からなかった。交番に着いたときに、息絶えていたのだ。
二人を軽くにらみ、しぶい顔をして奥に去ろうとする警察たちを尻目に、リティーは目を潤わせていた。
カラスのために泣くなんて。有香は生きている中で一番、そのことに驚いたらしい。
他にも全く知らない未成年の少年が、タバコを吸おうとしていたところを力ずくで止めたり、道のわきでひっそりとたたずむホームレスの話を聞いてあげたりしていた。
そう、きっとリティーは、天然と言うより優しいだけなのだ。有香を上回る想像力も香持っている。
もう彼女と六年のつきあいになる有香もリティーのそういう個性には慣れているはずだが、時々それを全て自分のものにしたいと思うくらい、羨ましくなることがある。
しかし、有香にとって、その優しさのせいで、リティーのことが心配なのだ。
ここまで優しい彼女だからこそ、不審者や悪い人に惑わされてしまうかもしれない。誘拐や人質にされても、その人のことを許してしまうかもしれない。
大人になっても、簡単に詐欺などに騙されてしまうかもしれない。
有香はリティーの一番の親友だから、どうしても気になってしまうのだ。
「ふーんふふーん♪ふん♪ふーん♪」
この世の全ての微笑みといっても過言ではない。意気揚々と、リティーは大きくスキップをしていた。そして、地球でも普通に目にするものばかりのこの星に、いちいち歓声をあげている。
「ねえっ!あれ見て!時計塔よね。何で、なあーんにもないこの平地のど真ん中に、時計塔があるのかしら?でも、それもすっごく独特よね!」
「ほらほら!次はあれよ!住宅街!やっぱり宇宙人が住んでいるのね。でもほら見てよ!家の形キノコみたいじゃない?かっわいいわ~!」
まるで、テーマパークに初めて来た子供だ。有香は半分呆れながら、しかしほんの少しどきどきしながら、走り回るリティーの後ろをついて行った。
そして、ついにリティーは見つけたのだ!
「あーーーーー!!!」
「うわっと!リティー、急に止まらないでよ。で、どうしたの?」
リティーは震える指で前を指した。
その先には、宇宙人がいたのだ。
しかし、有香の想像していたもの─まん丸なツルツルした頭に、タコのように無数に
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