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亡くなった祖母が見せた罪業の世界
つい最近の体験談。
亡くなった、母方の祖母のはなし。
両親ともに夜遅くまでの共働きな為、幼い私の育ての親は祖母であった。
祖父も健在であったが、子供が苦手なせいか、軽く言葉を交わしただけで、 何かしてもらった記憶はない。
まあ要するに、今健やかでいるのは祖母が見守って面倒をみてくれた おかげだと思い、その事にとても感謝している。
祖父に続き、その祖母が亡くなった。
最近まで足腰がしゃっきりとしており、よく喋り笑っていた祖母の 突然の病の宣告。数か月もたたないうちに還らぬ人となった。
その祖母の、今年の命日が近づいていた。
ベットに入り、そのことを思い出し
「ばあちゃん、今ごろあの世でノンビリと過ごしてっかな…」
などど、ホノボノとした気分で眠りについたのだが…。
気が付くと私の目の前に、祖母が正座をしてた。
祖母は、脳裏にこびり付くような生々しい朱色の色打掛を羽織っていた。
そして、私に気づき話しかけてきた。
「真咲ちゃん。この着物とてもきれいでしょ…」
そう言って祖母は打掛を脱ぎ、私の前で大きく広げた。
「ヒッ…!」
私は、詰まった悲鳴を漏らした。
色打掛の柄が……仏教に見られる「地獄絵図」
打掛の激しい朱に、「炎のようだ」と思っていたが、 まさに罪人を焼き尽くす炎の絵図が、打掛の全体を覆い尽くし 染めていたのだ。
その炎は、現実で燃え盛っているように、毒々しくうつる。
「ばあちゃん…なにそれ…」
私がやっと発せた言葉は、かすれていたと思う。
「そんな不気味な着物、ばあちゃんには似合わないよ…」
私がそう言うと、祖母は首を横に振ったあとこたえた。
「ばあちゃんもね、この着物から離れたいんだよ…。だけどね、
それは許されないんだ。」
色打掛の輪郭がとけていき、本当の炎となる。
触手のように祖母に絡み纏わりついていく。
同時に、祖母が全身をくねらせる。
「熱い…熱いいっ…」
か細い悲鳴とともに、祖母の表情もくしゃくしゃに歪んでいく。
「ばあちゃん!!」 祖母を焼いていく炎を何とかしようとするが、 まるで違う次元にいるかのように、祖母と炎から突き抜けてしまう。
「あたしの…生前の罪だ…。あんな根性をつかったから…おこないを
したからっ…」
そう叫びながら、祖母は丸めた体を焼かれながら姿を消していった。
その光景を見終えた瞬間、私は睡眠のためのベットに戻っていた。
夢にしてはリアル過ぎた。寝巻も下着も、汗で体に張り付いている。
私の中の祖母は、いつも笑っていた。
悪口や不平不満など聞いたことがない。
「お人好し過ぎる」と思うほど、人を疑わない性格だった。
地獄なんて、祖母とは無関係の存在だと思っていたのに…。
夢を見た翌日、何気に母に祖母のことを細かく訊いてみた。
母が言うには
「表面的にはあっさりしていて付き合いやすい性格だったけど、
人の意見を受けないタイプだったね。自分の価値観や考えが全てな人だった。」
「他人がどう思うかも考えないで、ポンポン思ったことを言葉にするもん だから、ずいぶんと傷つくようなこと言われた。何度も抗議しても言ってるそばから聞き流され、無駄だった。」
そう教えてくれてる途中から、母の顔も辛そうに変化していく。
亡くなった祖母を慕うというよりは、された仕打ちを思い出してのこと だとわかった。
「悪意なし・自覚なしだったということはわかっている。
だけど人が苦痛を訴えてやめてくれと言っているのにも関わらず、
自分の言動を顧みようともしなかった。自分自身や相手とも向き合おう ともしなかった。それは自覚ありの罪より罪深いと思うよ」
母の締めくくった言葉と、夢の祖母が発した最後の懺悔が重なる。
もしただの夢ではなく、本当に死後の祖母の行き先だったのだとしたら、
閻魔大王は祖母の何を罪業として、地獄に堕とすことを決めたの だろう。
ただ、今回のことで
「人の持つ顔は、ひとつではない」ことを、思い知った。
これは私自身にも当てはまる。
私自身いくら「よかれ」と思う顔(言動)を取っても、私に関わる人の数
だけ、見方も受け取り方も違うということだ。
それは、傷つく人もなかにはいるということでもある。
傷つけられた母や他の方々の悲鳴を、最後まで受け止めなかった祖母。
今度は祖母自身が因果応報として、地獄で悲鳴を聞き流されているのだ
ろうか。
人を傷つけないで生きていくことは、絶対に無理だ。
だからこそ、せめて自分が発する言葉は常に意識し、責任を持とうと
改めて思う。
私が見た祖母の夢は、祖母からの苦痛の訴えかもしれない。
ただそれ以上に、忠告という私を思う愛情だと受け取っている。
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