〈第7交差点〉

14/14
128人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
~side Hajime~ 「タツミくん、ちょっといい?」 先に帰ろうとするタツミくんを、俺は【きたいわ屋】の前で呼び止めた。 勇実はまだ、中で帰りの支度をしている。この後の、俺との時間を承知しているはず。早く勇実に触れたい。 「はい」 タツミくんは振り返って、俺の前まで戻ってきた。 俺とたいして差のない背丈、大きくて真っ直ぐな瞳。 なんとなく、これから俺が言おうとしている事、見透かしているような気がする。 「あのさ」 俺はひと息入れてから、続けた。 「キミはどういうツモリか知らないけど。 …いや、多分、単純に楽しいんだろうな。 でも。 アイツと何かやるの、もうこれっきりにしてくんないかな。 キミに味噌をあげるのも…今日で最後な」 言い切ったら、嫉妬丸出しの自分が情けな過ぎて、俯いてしまった。 しばらくの沈黙の後、ちらっとタツミくんを見て、俺は驚いた。 頭を下げている、タツミくん。 「ごめんなさい、ハジメさん。 俺、無神経でした。 もう二度としないんで、許して下さい。 イッサの事も…責めないでもらえませんか」 「え…いや…まぁ…ウン」 彼はやっぱり分かっていた。俺がどんなに勇実を好きで、離したくないのかを。 「いや…キミが俺達にすごい気ぃ遣ってたの分かるし… あー、もー…情けねぇな。勝手にヤキモチ妬いて。バカみてぇ」 はぁーっ、と大げさに溜め息をついてみる。 そんな俺の様子に、タツミくんはフフッと含み笑いをして、こう言った。 「俺、好きですよ。ハジメさんとイッサ。ふたり一緒なのを見ると、ほっとする」 まただ。彼は勇実と同じだ。なんの考えもなしに、好きって言う。その素直さが、俺には眩しい。 「はは…そうか?じゃあ、まぁ…応援頼むわ」 「はい」 「あ、味噌はもう出せねぇけど…また、食べに来てよ」 「フフッ、はい。イッサがいない時に、おじゃまします」 「え?別にそこまでしなくても…まじで、気ぃ遣いだよなぁ。 いーよ、来たい時に来てくれよ」 タツミくんはそれには答えず、ペコリと頭を下げて、この場を去っていった。 彼の背中が小さくなっていくのをボンヤリ見つめていると、俺の後ろでガラッと引き戸が開いた。 「ハジメちゃん?タツミくん、帰っちゃった?」 俺の勝手なヤキモチだけど、出来ればもう、勇実の口から彼の名前を聞きたくなかった。 「…うん。勇実、来て」 「…ウン…」 暗がりでも分かる、勇実の真っ赤な顔。 勇実の手を握って、そっと裏口へ引っ張った。 彼が、勇実を好きじゃなくてよかった。 …
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!