第3学期

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 郁が「どんな仕事?」と尋ねたら、奈緒ちゃんは少し照れながら説明してくれた。 「あのね、総合相談課っていってね、窓口に来た人のいろんな相談を受ける係。生活のこととか、福祉とか」 「へえー」  生真面目に、一生懸命に相談にのってくれそうだし、奈緒ちゃん自身には似合っているかもしれない。でも、そうちゃんとの接点がますます分からない。 「そうちゃんとどうやって知り合ったの? そうちゃんが窓口に来たの? なんか相談しに」  矢継ぎ早な質問に、そうちゃんが代わって説明してくれた。 「俺んちの近くにコーヒーの専門店があるんだけど、そこで奈緒がアルバイトしてたんだよ。就職する前に」 「ね?」と奈緒ちゃんの顔をのぞき込む。こっちが恥ずかしくなるくらい、てれてれだ。しょっちゅう会っている気がするそうちゃんだけれど、こんな顔は初めて見た。 「最初に話したのって、いつかな。三年半くらいは経ってるよね」 「そうですね」と奈緒ちゃんが同意した。  意外に長い。おじいちゃんが、満足そうにふむふむとうなずきながら聞いている。 「奈緒が初めてサイフォンでコーヒーを淹れた時に、たまたま居合わせて、その一杯をもらったんだよ」  そうちゃんは「懐かしいなあ」と目を細めた。 「そうちゃん、結構一途なんだね」 「あー、うん、まあそうなのかな」 ――否定しないんだ。  へえー、と思っていたら、おばあちゃんが横から心配そうに口をはさんだ。 「まさか、聡、しつこくしたり――」 「してません」 「本当に?」 「本当に。かわいいなとは思ってたけど、さすがに身の程はわきまえてました」 「あの、聡さんじゃなくて、実はわたしの方が――」  あわてたように口にした奈緒ちゃんの頬が桜色になっている。そうちゃんと一緒に、なぜかおじいちゃんまでデレている。 「年取ってるけど、いいの?」とお母さんが言った。 「いいだなんてとんでもないです。わたしの方が、足りないところだらけで――。あの、本当にふつつかですが、よろしくお願いします」  奈緒ちゃんは、きれいな目をまっすぐに前に向けて言い、深々と頭を下げた。
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