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「お母さんとお祖母ちゃんが話してるのを聞いた」
「──そっか。えーと、それで?」
「それでって?」
「郁、なにか悩んでるんじゃないの?」
また風が吹いて、茅の葉を揺らした。郁は、水面を見つめたまま、ぽそっと言った。
「ずっと変わらないのがいいって思ってても、色んなことが変わっていっちゃうんだね」
「──そうだね」
肯定されて、ずっと誰にも言えずにいた思いが転がり出た。
「お父さんが死んだ時、全部終わっちゃったと思った。三人家族じゃなくなって、お母さんと二人になって──、もう、今までみたいに楽しいとか思ったりすることないんだろうなって」
「──うん。でも、そうじゃなかった?」
「毎日、いろんなことが起きるんだよ」自分の言葉が、言い訳がましく聞こえる。「お母さんは変なおかずを作るし、おじいちゃんと見たテレビが面白かったり、合唱コンクールの伴奏することになったり、クラスの男子がめんどくさかったり」
郁は、足元の草をちぎった。つめの先が緑色に染まる。
「お父さんがかわいそうだよ」
郁の言葉に、そうちゃんは、そのまま黙って考えこんだ。川面にたったさざなみに、夕日が反射してきらきら揺れた。
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