第3学期

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 おじいちゃんが、冷蔵庫から冷えた日本酒を出してきた。 「飲みたい?」と思わせぶりに息子の前にちらつかせる。そうちゃんが受け取って、瓶の裏側のラベルを確認した。途端に声のトーンが上がった。 「限定酒だ。大吟醸――。は? 精米歩合二十二パーセント? 何だこれ、すごいな。どうしたの?」 「知りあいのツテで入手した」おじいちゃんが得意げに言い、いたずらっぽく笑った。「もしかして、茄子に合うんじゃないか?」 「いや、茄子には合わない。絶対、合わない。断言できる」  必死で主張するそうちゃんの隣で、奈緒ちゃんが楽しそうにしている。すごく自然で、いい雰囲気だ。一見して仲がいいのが分かる。 「開ける?」 「開ける」  水色の瓶を挟んで盛り上がっている二人には構わずに、郁は「奈緒ちゃん」と話しかけた。そうちゃんとおじいちゃんの日本酒談義よりも、奈緒ちゃんの方に興味がある。 「いろいろ聞いても構わない?」 「うん」  奈緒ちゃんは、ちゃんとお箸を止めて耳を傾けてくれた。丁寧な人みたいだ。それに、仕草の一つひとつが、ふんわりとやさしい。  こんな人を、そうちゃんは一体どこでつかまえたんだろう。 「奈緒ちゃんって、モデルさんか何か?」 「まさか、違うよ」  奈緒ちゃんが目を見開き、そんな、わたしなんかがという口調で言った。十分かわいいと思うのだが、本人にその自覚はないらしい。 「じゃあ、何してる人?」 「あのね、区役所に勤めてるの」  これにはびっくりした。てっきり、そうちゃんの仕事関係かと思っていた。本当にどうやって知り合ったんだろう。 「公務員か」  いつの間にか会話を聞いていたらしい。おじいちゃんが「ほう」という口調で言った。 「俺、言ったよ、電話で」そうちゃんが変だなあという風に首を傾げる。「特別区の職員だよ」  お母さんが「お父さんも、お母さんも、聡が結婚するっていうだけで舞い上がっちゃってたもんね」と冷かした。
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