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おじいちゃんが、冷蔵庫から冷えた日本酒を出してきた。
「飲みたい?」と思わせぶりに息子の前にちらつかせる。そうちゃんが受け取って、瓶の裏側のラベルを確認した。途端に声のトーンが上がった。
「限定酒だ。大吟醸――。は? 精米歩合二十二パーセント? 何だこれ、すごいな。どうしたの?」
「知りあいのツテで入手した」おじいちゃんが得意げに言い、いたずらっぽく笑った。「もしかして、茄子に合うんじゃないか?」
「いや、茄子には合わない。絶対、合わない。断言できる」
必死で主張するそうちゃんの隣で、奈緒ちゃんが楽しそうにしている。すごく自然で、いい雰囲気だ。一見して仲がいいのが分かる。
「開ける?」
「開ける」
水色の瓶を挟んで盛り上がっている二人には構わずに、郁は「奈緒ちゃん」と話しかけた。そうちゃんとおじいちゃんの日本酒談義よりも、奈緒ちゃんの方に興味がある。
「いろいろ聞いても構わない?」
「うん」
奈緒ちゃんは、ちゃんとお箸を止めて耳を傾けてくれた。丁寧な人みたいだ。それに、仕草の一つひとつが、ふんわりとやさしい。
こんな人を、そうちゃんは一体どこでつかまえたんだろう。
「奈緒ちゃんって、モデルさんか何か?」
「まさか、違うよ」
奈緒ちゃんが目を見開き、そんな、わたしなんかがという口調で言った。十分かわいいと思うのだが、本人にその自覚はないらしい。
「じゃあ、何してる人?」
「あのね、区役所に勤めてるの」
これにはびっくりした。てっきり、そうちゃんの仕事関係かと思っていた。本当にどうやって知り合ったんだろう。
「公務員か」
いつの間にか会話を聞いていたらしい。おじいちゃんが「ほう」という口調で言った。
「俺、言ったよ、電話で」そうちゃんが変だなあという風に首を傾げる。「特別区の職員だよ」
お母さんが「お父さんも、お母さんも、聡が結婚するっていうだけで舞い上がっちゃってたもんね」と冷かした。
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