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「一緒に片付けます」と申し出た奈緒ちゃんに、おばあちゃんは「今日は大事なお客様なんだから、次からね」と言った。
それから「くたびれたでしょう、のんびりしてね」とお風呂に送り込んだ。
そういうわけで、お母さんとおばあちゃんが、キッチンのシンクの前に並んでいる。
郁は、ふきんを手に洗い終わった食器を片付ける係だ。とは言っても、今日のお料理は仕出しだったので、大した仕事はない。
「本当に、いいお嬢さんやね」
コップを洗いながら、おばあちゃんがしみじみと口にした。口調に安堵がにじんでいる。
もしかしたら、郁と同じように「若い子とミュージシャン」みたいな想像をしていたのかもしれない。
「奈緒ちゃんね、聡と同じ部屋だって知ったら、気の毒なくらいおろおろしちゃって」お母さんがくすくす笑う。
「あれはかわいかったなあ。あたし、聡にはちゃんと『寝るのは同じ部屋でいいか』って事前に確認したんだけど」
「とにかく、よさそうな人で安心した。仲もいいみたいだし」
「本当にね。お父さん、絶対『でかした』って思ってるよ、あれ」
「お父さんも、でれでれだったもんね」「あからさまよねえ」という言葉が飛び交う。
ひとしきり賑やかに言い合ったあとで、おばあちゃんがぽつんと口にした。
「聡はねえ、ほら、いろいろあったし、誰かと一緒になるとかは、もうないんじゃないかって思ってたからね」
「そうね」とお母さんが優しく相槌を打った。
「まさか今日みたいな日があるなんてね。悲しいこともあるけど、嬉しいことだってあるんだねえ――」
そうちゃんの“いろいろ”というのが何なのかは知らないけれど、そうちゃんだって、そうちゃんの人生を生きてきたんだろう。
生きていれば、きっといろんなことがある。まだ高校生の郁にだって、いろんなことがあるみたいに。
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