第1学期

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「あのさ──」続く言葉を選ぼうとして、そうちゃんは逡巡した。「ええと、あー、うーん」  しばらく悩んでから、諦めたように力を抜いて、ぽつぽつと話し始める。 「あのさ、うまく言えないけど──」 「うん」 「たぶん、そういうものなんだよ」  郁は、眉根を寄せた。 「月並みだけどさ。郁は生きてて、郁のまわりも生きてて、どっちも一緒になって、いろんなことが動いていく。とどまったり遡ったりはしないし、できないんだよ」  そうちゃんは、まっすぐ郁を見た。 「お父さんは、その流れから離れてしまったけど、今、もしどこかから郁を見てるとしたら、寂しく思ったりなんかしていない。絶対、喜んでる」 「なんでそんなこと分かるの。いいかげんなこと言わないでよ」  郁は、そうちゃんから目をそらし、下を向いた。髪が落ちてきて、頬を隠す。その陰で、また涙がこぼれそうになった。同時に、今もまだこんなふうに“悲しい”と感じられることに安心する自分がいて、悲しくなる。 「最後に話した時、義兄さんは、郁と姉さんのことだけ心配してた。だから、郁が楽しくしてるなら、それが一番嬉しいと思う」  そうちゃんが、ぽつりぽつりと話してくれる。 「俺だったらどうだろう、ってその時は思ったんだよね。でも、今は、伸一さんが思っていたこと、分かる気がするんだよ」  そうちゃんが手をのばし、口をへの字に結んだ郁の頭をくしゃくしゃにした。顔を上げた郁の眉根が寄っているのを見て、ふわりと笑った。 「悩むな、それでいいから──って、お父さんは郁に直接言えないから、俺が代わりに言ってやる」  郁は、抱えていた足を草の上に伸ばした。 「そうちゃん、いいやつだね」 「気づくの、遅いよ」
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