第3学期

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   ***  翌日、一月二日は、結構忙しかった。  毎年恒例の親戚の集まりがあって、普段会わないおじいちゃんのきょうだいと顔を合わせた。  和室に集まって、お節料理を囲む。席の間を縫うようにして、おじいちゃんとおばあちゃんが、奈緒ちゃんを「聡のお嫁さんになる人」だと紹介して回った。  はにかみながらも一生懸命に受け答えする奈緒ちゃんと、冷やかされてあたふたするそうちゃんが、みんなに受けていた。その様子を見ているうちに、あることが気になってきた。 ――みんな、そうちゃんの仕事のこと知ってるのかな。  座卓の向こうでは、大叔父さんが上機嫌でそうちゃんにお酒を注いでいる。奈緒ちゃんに向ける顔がでれでれだ。おじいちゃん同様、「やったね!」と思っているのに違いない。  何気なく見ていたら、すぐ横にいたおじいちゃんの妹が「あ、そうだった」と言って、バッグから薄くて四角いものを取り出した。CDだ。一緒にペンも取り出して、そうちゃんに差し出した。  そうちゃんがプラスチックのケースを開けて歌詞カードを取り出し、慣れた様子で何かを書いている。 ――サインだ。 「ありがと。知り合いの子にね、うっかりしゃべったら、どうしてもって頼まれちゃって」 「僕の方こそ、ありがとうございます。感謝していたと伝えていただけたら」  叔母さんが、そうちゃんの肩をぺしぺし叩いた。 「もー、聡君ったら、こんなに地味――じゃなかった、あはは、控えめなのにねえ。がんばってね」  叔母さんは、にこにこしながらCDをバッグにしまった。 「がーん」  心の声が口から出てしまった。お母さんに怪訝な顔をされて「何でもない」とごまかした。 ――知らなかったの、わたしだけ?  目の前では「披露宴は」だの「公表するのか」だのの話が続いているけれど、耳に入ってこない。 ――もしかして、わたし、鈍いのかな。  頭の中で、和泉が「鈍いよ」と言った。頭をぶんぶん振って、その顔を追い払った。
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