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コンビニはバス通り沿いにある。奈緒ちゃんと一緒に、いつもの通学路をぽくぽくと歩いていく。
酒屋さんの角を曲がり、川沿いの道に出たところで視界が大きく開けて、奈緒ちゃんが「わあ」と声を上げた。
冷たい風が川の向こうからぴゅうっと渡ってきて、二人して肩をすぼめる。奈緒ちゃんの髪がふんわり揺れた。
「寒いね」
奈緒ちゃんが、こっちを見て笑う。
「そうだね」
「郁ちゃん、鼻の頭が赤くなってる」
「奈緒ちゃんこそ」
二人で「えへへ」と笑った。奈緒ちゃんがまとっている空気は、柔らかくて優しい。何だか穏やかな気持ちになれる。
「ねえ、奈緒ちゃん」
「なあに?」
「そうちゃんが結婚するのが、奈緒ちゃんでよかったな」
奈緒ちゃんは、びっくりしたみたいに目を見開いてから、「ありがとう」と目を伏せた。
「わたしも、聡さんの姪御さんが郁ちゃんでよかった」
二人して照れてしまい、つま先を見ながら歩いた。郁は、ふと思いついて言った。
「奈緒ちゃん、最初から、そうちゃんの仕事のこと知ってた?」
一瞬、間があった。
「知らなかった」
「そうなの?」
「そうなの。言わないんだもん、何も。わたしが気がつくまで黙ってたんだよ」
どこかで聞いたような話だ。そして、年上の人に言うのはなんだけれど、ちょっとむくれている様子がかわいい。奈緒ちゃんは続けた。
「でも本当はね、聡さんが何者でも関係なかったと思う」
「――そうちゃんのこと好きなんだね」
「うん。一緒にいられて幸せだなあって、いつも思ってる」
奈緒ちゃんは、かみしめるように言って、ほほえんだ。
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