1950人が本棚に入れています
本棚に追加
コンビニで、そうちゃん用のミネラルウオーターと、缶入りの温かい飲み物を二本買った。
郁はウーロン茶、奈緒ちゃんはミルクティー。それぞれ手に持って指を温めながら、さっき歩いてきた川沿いの道を戻っていく。
しばらく歩いたところで「河原で飲んで行こうよ」と奈緒ちゃんを誘って、コンクリートの段を下りた。
去年、春の終わりに、同じこの場所で、そうちゃんと話をしたのを思い出した。
あの時、青々と茂っていた茅の葉っぱは、すっかり枯れてなくなってしまっているけれど、その分、視界を遮るものがなくて、川の流れがすぐ目の前に見える。
風は冷たいけれど、日なたの日差しがぽかぽかして気持ちがいい。水が、きらきらと陽の光を反射させながら流れていく。
「きれいだね」と奈緒ちゃんが言った。
「うん。ここ、たまに来るんだよ」
去年の今頃、お父さんは入院していた。病院にいたのは四か月ほどだったけれど、その間、何度この場所に来て、今見ているのと同じ風景を眺めたことだろう。
あれから一年が経った。
「去年はね、結構いろいろあったから、ここに来て、ぼんやりしたりしてた」
郁の言葉を聞きながら黙って川面を眺めていた奈緒ちゃんが、ゆっくりした口調で話し始めた。
「あのね、聡さんとわたし、年が離れてるでしょう?」
郁はうなずいた。奈緒ちゃんとそうちゃんは、十五歳ちがいだと聞いている。
「聡さん、そのことをずっと悩んでた。そんなの関係ないのに、誠実な人だから」
「そうなの?」
「うん。あのね、切れそうだったの、糸が。ちょうど一年くらい前にね、連絡もなくなって――」
まさか、と思う。今の二人の様子からは、そんなことがあったなんて想像できない。奈緒ちゃんの目が、ふっと優しくなった。
「郁ちゃんのお父さんが、つないでくれたんだよ」
「え?」
「聡さんに、何か大事なことを伝えてくれたの。たぶん、すごく大切なこと。ありがとうって、そう思ってる」
最初のコメントを投稿しよう!