第3学期

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 しばらくの間、並んで座って水面に踊る光を見ていた。  お父さんは、そうちゃんに何を伝えたんだろう。知りたい気もするけれど、それよりも――。  お父さんは、ここにいる。郁の中に、そうちゃんの中に、会ったことがない奈緒ちゃんの中にさえ、確かに存在している。そんな当たり前のことに気がついた。 ――もしかしたら、本当にいなくなってしまうことなんて、ないのかもしれない。 「郁ちゃん?」  柔らかな声で我に返った。奈緒ちゃんがこっちを見ていた。目が合うと、奈緒ちゃんはふわっとほほえんで「大丈夫だよ」と言った。 「大丈夫だよ、全部」  もう一度、ゆっくりと繰り返す。  何が大丈夫なのか、奈緒ちゃんは言わない。でも、そんな風に言われたら、何もかも大丈夫な気がしてきた。 ――うん、大丈夫かもしれない。 「帰ろっか」  郁は明るく言い、立ち上がった。  風に背中を押されるようにして、コンクリートの階段をのぼる。「寒くなってきたね」「ほんとだね」と声をかけ合いながら、家に向かって歩き出した。
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