1954人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあね」
確かに、冷静に考えれば、弾くこと自体は悪くない。それに、学校の音楽室は家より広くて気持ちがいいし、音響もきれいだし、演奏会にも使えるクラスのグランドピアノが入っている。
ただ、目下の悩みは──。
「指揮者、どうにかならないかな。ふざけすぎなんだもん」
つぶやいた瞬間に、和泉が目の色を変えた。
「もしかして、練習って、指揮者も一緒?」
「うん」
当たり前だ。クラス全体での練習の前に、指揮と伴奏は、ちゃんと合わせておく方がいいに決まっている。和泉がなんで血相を変えるのか分からない。
「指揮者って、三上だよね?」
「そうだよ」
郁は、口をとがらせた。
三上は、同じクラスの男子だ。郁が見たところ典型的なお祭り好き男子で、周りにのせられて、つい立候補してしまったということらしい。実は楽譜も苦手なのだと言っていた。
まあ、コンクールはクラス対抗だし、親睦も兼ねているんだろうから、盛り上げてくれるのはいいと思う。でも、せっかくの練習時間にふざけてばかりいるのは感心しない。
──本番でやらかさなきゃいいんだけど。
頭の中で考えていたら、和泉が「あのさ」と言った。「岡野、まさか、一緒に帰ったりしてないよな。三上と」
「は? なんでわざわざ一緒に帰るの?」
言いながら、校門をくぐった。
「いや、なんでって言われても──」
和泉が言い淀んだ。最近の和泉は、本当によく分からない。
最初のコメントを投稿しよう!