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十畳ほどのフローリングの部屋は、新築の匂いがする。
お母さんと郁がこの家に住むことが決まってから、おじいちゃんとおばあちゃんが、古くて大きい日本家屋の一角を改造してつくってくれた部屋だ。ちゃんと防音もされている。壁際には、この春まで住んでいたマンションで使っていたアップライトピアノがちょこんと置かれている。
視線を感じたのか、そうちゃんが目を上げた。
「なに、郁。どうしたの」
そうちゃんは、お母さんの弟だ。
お母さんの年齢からすると、たぶん、そうちゃんも三十七、八歳にはなっているはずだけれど、見た目は若い。少しだけ茶色い髪をして、無印か何かっぽいシャツを着ている様子は、まるでそこらの大学生みたいだ。
「独身でああいう仕事だと、あんな風になるのかなあ」というのはお母さんの見解だ。
ちなみに、そうちゃんは音楽を仕事にしている。詳しく聞いたことはないけれど、ミュージシャンのうしろでギターを弾いたりしている――らしい。
郁は、譜面台の上に目を向けた。そこに手書きの楽譜がのっている。
「そうちゃんが送ってくれた曲、いいねえ。すごく」
郁の言葉に、そうちゃんは、照れたように弦に目線を落として、じゃん、と鳴らした。そうちゃんの耳は正確だ。どの弦もきれいに合っている。
「郁に言われると、なんかとっても嬉しいんだよね」
言いながら、ギターを適当につま弾いた。ちょっと恥ずかしそうだ。
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