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私は一ヶ月間の出来事を、拓也に一生懸命話した。拓也はときどき相槌を打ちながら、そして笑顔を見せながら私の話を聞いている。
そして、あっという間に一時間が近づいてくる。それにつれて、だんだんと拓也の顔に翳りが見え始める。
「ねえ、拓也、どうかしたの?」
私は尋ねた。
「実はね、僕はどうしても穂乃果の願いを叶えたくて、今日は一時間一緒に居るって決心したんだ」
「ありがとう」
「でもね。これで、最後なんだ」
「うん。一回でも長い時間一緒にいられて嬉しかった」
「いや、そうじゃなくて、もう会えないんだ。僕はもうこっちには来れない」
私は思わず言葉を失う。何が起きているのかもよくわからない。そんな私に拓也はゆっくりとした口調で言う。
「僕は掟を破って、一時間もこっちにいたからね。だから、もう来れないんだ」
「そんなのイヤだよ」
「でも、もう無理なんだ。一度でも穂乃果の願いを叶えられてよかった」
拓也の体はもう消えかけている。
「イヤだよ。行かないで」
「もし、穂乃果がいつか死んだら、あの世で待ってるから、よろしくね」
拓也は最後に最高の笑顔を見せて消えていった。
それが、私の初恋だった。
【完】
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