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次の日から、きっちり午前三時になると拓也は私の部屋に現れるようになった。私は拓也に求められるままに、学校での出来事を話す。ときには楽しかったことを、ときには悲しかったことを。私が悩んでいるときには、拓也は相談に乗ってくれるし、私の愚痴も黙って聞いてくれる。そんな拓也に、私はだんだん心惹かれていった。
だけど、相手は幽霊なのだ。実らない恋だということはわかっている。それでも私の気持ちはもう抑えきれない。毎日、拓也と会えるのが待ち遠しくてたまらない。目覚まし時計をセットして、拓也が出てくる十分前には毎晩目を覚ますようにしている。一日たった十五分の逢瀬。それが私にとっては何よりも輝かしい時間なのだ。
方程式を解き終えた拓也は、私のベッドにそっと腰を下ろした。
「ねえ、拓也。もうすぐ時間だね」
私は時計を見ながら言った。時計の針は、午前三時十三分を指している。あと二分で拓也は消えてしまう。そう思うと、急に寂しくなって、涙がこみ上げそうになる。
「そんな顔しないでよ。明日も来るからさ」
拓也はそう言いながら私の頬を撫でてくれるけど、どこを触れてもやはり何の感覚もない。
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