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「ちょっと待って。書き留めるから」
私はベッドから這い出して、カバンの中からシャーペンとノートを取り出した。だけど、部屋の電気を点けるわけにはいかない。私は拓也から発される仄かな光を頼りに、ノートに数式を書き込む。
「じゃあ、続きいくよ」
「はい」
「更に因数分解を進めるね。『x²+6x+5』の部分が更に因数分解できるから、最初の方程式は『(x+1)²(x+5)=0』となる。ここまでくれば、もう答えはわかるよね?」
「『x=-1,-5』っていうこと?」
「大正解」
拓也は満面の笑みを浮かべた。私はホッと胸を撫で下ろす。
「だけどさ、高校に行ってないのに、どうしてこんな問題が解けるの?」
「自分で勉強したから」
「中学生のときに?」
「うん。数学は好きだったからね。何なら微分や積分、三角関数なんかもわかるよ。家庭教師してやろうか?」
「凄い……とは思うけど、年下の家庭教師なんてごめんよ!!」
「そう?」
「そうよ。でも、ありがとね。この問題はわかったような気がする。別の問題が解けるかどうかわからないけど」
私が言うと、拓也は呆れたような顔をした。だけど、数字や式をちょっと変えられたら解けなくなるのが、数学が苦手な人間の常ではないか。
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