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天涯孤独だと思っていた。
両親の事も自分の素性も何一つ分からない。
生後まもなく施設の前に捨てられていたらしく、名前以外は一切不明。詳しい事情を知る人も、もちろん迎えに来てくれる人もいなかったらしい。
曲がらずに生きてこれたのは寮母さんや沢山の仲間たちのおかげだ。血の繋がりが無くても、あたたかな家族が私を支えてくれた。孤独ではないと教えてくれた。
人より少し特殊だけど、それなりの幸せ……味わってきたと思う。
そんな私をずっと探し続けていた祖父がいたのだと知ったのは、大学進学も決まり、高校卒業を目前にした時だった。
「鈴原 陽菜さんだね。はじめまして」
施設に私を迎えにきた人は、背の高い若い男性。
祖父の所有する私設図書館で司書を務めているという彼は、祖父から私の存在を聞き、そして「孫に全てを」という祖父の遺言を守る為に私を探しだしてくれたのだ。
「あなたは?」
「成瀬 祥一朗と言います。鈴原氏にはとてもお世話になったんだ。聡明で優しい人だったよ」
長い前髪の奥で、懐かしそうに、そして悲しそうに細くなる瞳。
成瀬さんもとても優しい人なのだと、その眼を見た時に私は感じた。
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