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「二階……司書……」
昨日と同じ、抑揚の無い声が聞こえた。低くかすれた霊の声に全身が凍る。
明るいフロアーに一つの大きなシミの様な影。じっとりと濡れた気配をまとうその影が、靴音と水音を出しながらこちらに向かって来ている。
ゆっくりと響く音から逃れようと足を動かそうとした。
だけど、嘘みたいに身体は動かなくて。金縛り? ……恐怖からか声も出せない。
「《ヴァッサーゴの隻眼》を探してるんです……」
目の前に現れた彼女は前と同じことを言った。
濡れた衣服と長い髪から落ちる滴が私の足元を濡らす。それくらい、私と彼女の距離は不自然なほど近い。こんなに近いのに髪に隠れ表情が見えないのが恐怖を倍増させる。
「さがして」
濡れた土の香りとひんやりした空気が鼻先に触れた。
あまりの近さと恐怖に私の身体はガタガタ震え始める。今までこんな怖い思いをした事はなかったのだ。
それは幽霊を見慣れた自分が初めて経験する、異種の者への恐怖だった。
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