近付く足音

16/16
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
私は司書じゃない 言いたい言葉は全く音にならず。 私は、少しだけ動く首を小刻みに横に振って自分の意を伝えようとした。 だけど、強張る私の顔とその動きを、彼女は違う意味で捉えたらしい。私が拒否したと思った様だ。 ピクリと肩で反応した彼女は「何故?」と呟いた。低い低い声で。 「おしえて……おしえてください」 伸びてきた黒い指。 指先も掌も、泥で黒く。爪の数枚は剥がれてしまっているのか赤黒く見えた。 その指先が私に触れようと近づく。 「……っ……!!」 「――さがして。……おしえて」 一瞬だけ、隠れていた彼女の瞳が見えた。 虚ろなそれは、命の輝きを失った、ただの黒。 「いやあぁっ!」 震える身体に思い切り力を込める。 助けて 冷たい空気を声で跳ねのけようと、私は叫んだ。 「助けて……! 誰か……」 へたり込んだ私に、黒い女が覆いかぶさってこようとした。 寒い。 「成瀬さん……」 このまま闇に包まれて、ゆるやかに命が消えていくのだろうか――。   
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!