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「そうね。でもまあ社長も納得するでしょう。他ならぬ可愛い一人息子の仕出かしたことならば、喜んで受け入れるでしょうし」
「ご冗談を。まっ、説教されるいわれもないですけどね」
フフッと笑いながら、梢さんは車を動かした。
…すでに外は茜色に染まっていた。
「今日はこのまま家に送るわ。それともどこかで食事して行く?」
「会社の経費で落ちるなら、焼肉でも食べたいですね。肉体的にもそうですが、精神的にも疲れてしまったので」
「OK。あたしのお気に入りの焼肉店に連れてってあげる。到着するまで、寝ててもいいわよ?」
実はちょっと眠気に襲われていたりする。
梢さんには何でもお見通しにされてしまうな。
苦笑しながら、オレは欠伸を堪えた。
「じゃあお言葉に甘えて」
「ええ、今しばらくはオヤスミなさい」
オレはシートに深く身を沈めて、眼を閉じた。
最初は嫌がっていた仕事だけど、梨奈のように救ってあげられる人がいるならば、案外この仕事も悪くないんじゃないかと思った。
できるならこの後もまともな人と接したかったのだが…それは叶わぬ願いだと実感するのは、このすぐ後だった。
<終わり>
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