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梨奈の悩み
「ここ…ですか?」
「ええ、梨奈ちゃんのご希望よ」
梢さんの運転する車で連れて来られたのは、雑誌にも紹介されるほど有名なラブホテルだった。
「ここはカバンは必要ないぐらい、準備が整っているから」
カバンと聞いて、クラッと目眩がした。
前回、紗雪との時にはじめて見たカバンの中身は、セックス用具で埋め尽くされていた。
思い出すだけでも血の気が引く。
「このラブホテル、確か深夜番組でも紹介されていましたね」
「嬉しいわね♪ ここはウチの会社のラブホテルなのよ」
再びくらぁ~り…。
「電話一本、あるいはメールで何でも揃えてくれるから。特に若様のご希望なら、一瞬で何でも用意してくれるわよ」
梢さんはホクホク顔で言うが、オレはノーマルだ。
「あっ、そうですか」
「まっ、今回は梨奈ちゃんが相手だし、話中心にお願いね」
不意に真剣な顔になり、梢さんは声を潜めた。
「分かっていますよ。それとなく、相談に乗ってみます」
カウンセラーから、ある程度の講習は受けた。
自分では手に負えないと思ったら、カウンセラーに回すという話だし、今回は気が楽だ。
車は地下駐車場に入り、そこで梢さんとはお別れ。
「今回は終わったら連絡してちょうだい」
「分かっていますよ。それじゃあ」
「ええ、頑張ってね」
今回はお泊り無し、時間も制限されている。
逆にそれがありがたい。
時間がせまれば、イヤでも終わらせられる。
…何も女の子との絡みがイヤなワケじゃない。
でもオレはやっぱり、会社の跡継ぎとしての普通の仕事がしたい!
いい加減、こういうのは止めてほしいんだけど…親父と秘書軍団には勝てる気はしない。
命と貞操を天秤にかけて、オレは迷わず貞操を落とす!
それほど恐ろしいのだ、奴らは。
「はぁ…」
早くエラクなりたいものだ。
暗い気持ちになりながら、エレベータに乗り込んだ。
すでに相手はチェックインしているので、オレは部屋に真っ直ぐ行けば良い。
梢さんに教えてもらった階と部屋番号を思い出しながら、再びため息をついた。
部屋の前に来て、梨奈の容姿を思い出す。
長い茶髪は腰まで伸びていて、猫目も茶色だった。
全身の写真を見ると、スレンダーな美人という感じ。
紗雪とは正反対だな。
清楚で可憐という言葉が似合った紗雪。
梨奈はギャル風だな。
…そんな相手と付き合ったことがないオレは、多少なりと緊張していた。
けれど終わらせなければ、オレ自身がいろんな意味で終わらせられる!
オレはインターホンを押した。
<ピンポーン>
最近のラブホはインターホンまで付いているのか。
<ドタバタドタっ>
足音が近付いてきたかと思うと、
<バンッ!>
と勢い良く扉は開かれた。
中から現われたのは、あの写真の女の子・梨奈。
今は丈の短いキャミソールと、腰を曲げたら下着が見えそうなほど短いミニスカートを穿いている。
「若様?」
第一発声は、思っていたより若い声だった。
「うっうん。梢さんから話は聞いているだろう?」
「ええ…。入って」
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