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魔破街の住人達
ごとっ…
足元に何か落ちてきた。
「? …~~~っ!」
声にならない絶叫が、ノドから溢れ出た。
バンッ!
思いっきり鉄の扉に背を付ける。
何故なら…落ちてきたのは、男のクビ。歳は50はいっているような男のクビだった。
だらしなく舌をだし、クビと眼から血を溢れ出している男は、死んで間もないだろう。
…まだ目玉が動いていたから。
「ったく…」
その時向こうから、女の子が来た。
「チカンなんてサイテーね」
片手に血塗れの斧を持ち、自身も血に塗れたセーラー服を着た女の子は、オレを見て、ポカンとした。
「…アラ? 珍しいわね。お客様?」
「いっいえ、今日からここに住むことになったサマナと言います。ムメイさんって方はご存知ですか? 学校に行けば会えるって聞いたんですけど…」
「ムメイ…先生のこと? アラ、それじゃあアナタが転入生?」
彼女は明るく笑って、斧を投げ捨てた。
そしてオレに駆け寄ってきた。
「ようこそ! 魔破街へ。あたしはサラ。アナタとは明日からクラスメイトよ」
「そっそう」
「ムメイ先生から事情は聞いているわ。アナタ…」
彼女は花の様な笑みを浮かべながら、とんでもない一言を言った。
「お父様に売られたのね」
「………は?」
オレが、父に、売られた?
「まあそんなこと、どーでも良いか。来て、学校へ案内するわ」
そう言ってオレの手を握って歩き出す。
柔らかくあたたかい手だけど…血まみれだ。
「あっあの…」
「なぁに?」
「この人のこと…警察に言った方が…」
先に進むと、男の体がバラバラになって道に転がっていた。
「ああ、後で処理班の人が処理してくれるから大丈夫よ」
「いっいや、そうじゃなくて…キミのことなんだけど」
「あたし?」
サラはきょとんとした。
…こんなに可愛いのに。
可愛いと言うよりは、美人だ。整った顔立ちに、リンとした声がとても合っている。
「アラ、いけない!」
彼女はハッと気付いたようだった。
「あたしったら、あなたを案内するのにこんな血まみれで!」
って、何か違う!
しかしサラは自分の体を見下ろし、しゅん…と落ち込む。
「初対面からこんな汚い格好をさらしてしまうなんて…」
「いっいや、その格好は別にいいんだけど…」
ホントはよくないけど!
「あの男の人のこと…警察に言わなくて良いのかなって」
「ケーサツ? ケーサツってなぁに?」
「えっ?」
…彼女はとぼけて言っているワケじゃない。
本当に警察という言葉も意味も知らない。
純粋な困惑の表情が、それを物語っている。
「警察って、ホラ。悪いことや人を傷付けた時に、その罪と罰を取り締まる職業のことで…」
「罪? 罰? …ああ、本で読んだことがあるわ」
それは『罪と罰』!
しかしサラは首を傾げる。
「表の世では、そういう職業の人がいるのね」
「『表の世』?」
「そうよ。ここにはケーサツという職業の人はいないわ。代わりにいるのは処理班」
「処理班?」
その言葉はあまり聞かない。
「そう。さっきの死体を処理してくれる人達のことを言うの。まあ職業ね。死体を処理した後、死亡届けのこととかもしてくれるから」
「キミは…」
オレは勇気と声を振り絞った。
「裁かれないの?」
「裁く? …何を?」
…そこでオレはようやく、この街の異常さに気付いた。
そう、ここはオレが住んでいた世の中の常識が通用しない。
恐るべき、罪と罰が無い世界だったのだ。
そしてサラに案内され、オレは街の中心にある学校にたどり着いた。
…途中で通った街の中、オレはそれを見て、やっとこの街が普通ではないことに気付いた。
そしてサラが言った、親父に売られたという意味も、分かりかけてきた。
校門には、『魔破学院』と刻まれた石板があった。
「魔破学院?」
「そうよ。この街にはここしか学校が無いの」
「小学校とかは?」
「全部ここに入っているわ。でも大学となると別だけどね」
そう言ったサラは少し、悲しそうだった。
別の意味を聞こうと口を開いたオレだったけど、校舎から走ってくる人を見て、やめた。
「こぉらっ! サラっ! お前、何でサマナと一緒なんだ!」
アゴに不精ヒゲ、そして肩まで伸びた髪を後ろに一つに結んだ男性はこっちに駆けつけてくるなり、サラの頭にゲンコツを振り落とした。
がつんっ!
あっ、良い音。
「いったぁ~い! 信じらんなぁい! ここまで案内してきたのよ? サマナくんが安全に来られたのは、あたしのおかげでしょ?」
「お前自身が危険なんだよ!」
…それは一理ある。
ぎゃんぎゃん騒ぐ二人を傍観していたが、ふと男性がオレを見た。
「あっああ、悪いな、サマナ。ほっといて」
男性はボリボリ頭をかきながら、オレの方を向いた。
「俺はムメイ。親父さんから聞いているか?」
「はっはい…」
「なら良い。今日から俺がお前の保護者代理人だ。何でも頼ってくれ」
そう言って手を差し出してきたので、オレは恐る恐る手を握った。
「はい、よろしくお願いします」
「ところでムメイ先生、彼ってお父様に売られたんですよね?」
ぴしっと音がなるぐらい、男性…ムメイの笑みが固まった。
「じゃなきゃ、一人でこの街に来ませんもんね」
「あの~、サラ」
「んっ、なぁに? サマナくん」
サラはオレの問い掛けに、笑顔で答えてくれる。
「オレが父親に売られたって…どういうこと?」
「アラ、やだ。知らないの? 表の人間がここに引っ越して来るのって…」
「わあああああ!」
ムメイが突如叫び出し、サラの声を遮った。
「キャッ! いっいきなり、何なんですか! ムメイ先生」
「サマナ! こっちで手続きするからな! サラ、今日はありがとう! また明日な!」
「はっ?」
サラが素っ頓狂な声を発している間に、ムメイはオレの手を掴み、校舎の中に入った。
校舎には人気が無い。
今は平日の午後。普通ならまだ授業中のハズだが…。
「今日の授業って終わったんですか?」
「あっああ。午前で終了した」
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