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「それに…オレはここに来るまで、街の様子を見て来たんですよ? …オレの知っている店なんて、ほとんど無かった。どこか特殊で、どこか変わっている」
街の様子を思い出し、思わず顔が歪む。
「父はオレに何も言わなかった。それはつまり、ムメイさん。貴方に聞けということでしょう?」
真っ直ぐにムメイの眼を見ながら言った。
するとムメイは深く息を吐き、
「…ああ、そうだろうな」
観念した。
そして台所へ行き、銀色の灰皿を持ってきた。
「タバコ、良いか?」
「どうぞ」
親父も吸っていたから、気にならなかった。
ムメイは窓を少し開けて、再び腰を下ろした。
そしてタバコに火を付け、ゆっくりと吸って―。
「―お前が父親に売られたということは、本当だ」
とんでもない一言を言った。
「何故…ですか?」
オレの声は震えていた。
冷静な父親の姿が、頭に浮かんだ。
「…この街の異常さにはもう気付いているんだろう?
この街にいるヤツ等はな、みんな『犯罪遺伝子』を持つ連中なんだよ」
「『犯罪遺伝子』?」
「聞いたことないか? 表の世では大犯罪を起こしたヤツの遺伝子を、濃く受け継いだヤツは、同じように大犯罪を起こすって言われているんだ」
「それはっ、…あくまで仮説でしょう? 通説じゃありません」
「そうだな。だが…」
長くなった灰を灰皿に落とし、ムメイは言い辛そうに続けた。
「その『犯罪遺伝子』を持つ者を集めたのが、この魔破街。そしてその住人達の異常性は…お前が見た通りだ」
「っ!?」
「『犯罪遺伝子』を持つ者は、政府によって調べられ、ここに隔離される。そして閉じ込める代わりに、ここにいる間は自由を許される。警察という存在が無いのは、そのせいだ」
「でもっ! 警察という存在が無いから、こんな無法地帯になってるんじゃないんですか!」
「一理ある。だがあったとして、住人達に飲み込まれるだけだ。…意味は殆ど成さない」
「くっ…!」
確かにこの街に住めば、染まってしまうだろう。
「だが警察という存在を抜きにすれば、他の街とは変わらない。病院だってあるし、消防署だってある。『犯罪遺伝子』を持つ者は、何故か身体能力・頭脳指数ともに優れている者が多い。そこは安全だ」
「…医者が人を殺すことはないんですか?」
「多分、な。まあ頭のイカれたのは多いが」
…意味ねーじゃん。
「じゃあ…」
オレは渇いた声を出した。
「…オレや親父も、『犯罪遺伝子』を受け継ぐ者なんですね」
ムメイの表情が、苦悩の色に染まった。
「…ああ、そうだ」
消え入りそうな声、だけどしっかりオレに届いた。
「オレの…身内は一体何をやらかしたんです?」
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