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各居室をまわり、一人一人の寝顔を確認する。よし、ちゃんと息をしていると確認出来たら次の居室へと移動する。
そうやって何部屋かまわり終えた時、ふと後ろから足音が聞こえて来た。振り向いてみたが誰も居なかった。空耳かと思いきわ美は巡視を続けた。
巡視も半分ほどまわったが、足音は聞こえて来なかった。やっぱり空耳だったのかと安心し、きわ美は次の居室へと入った。
「あれ? 鈴木さん……」
鈴木さんが寝ているはずのベットが空っぽだった。鈴木さんは歩行不安定で車椅子使用だが、自分で乗り降りも出来、トイレも自分で行っている頑張り屋さんのお婆さんだ。なのでトイレにでも行っているのかなと思ったが、ベットサイドには車椅子があった。
慌ててベット周りや居室内を探すが鈴木さんは居なかった。もしかしてさっきの足音は、と思い、きわ美は廊下を引き返した。しかし鈴木さんの姿も足音も無かった。
きわ美は走った。施設中走り回った。廊下、食堂、リハビリ室、浴室、トイレ……しかし鈴木さんの姿は無かった。まさか外に出てしまったのではと思い、空いているドアは無いか見て回ったが、何処のドアもしっかりと施錠されていた。
これは自分一人の手には負えないと、仕方無く先輩介護師を起こしに仮眠室のドアを叩いた。
「先輩、鈴木さんが……居ません……」
走り回って息が切れていて上手く喋る事が出来なかったが、きわ美はドアを叩き続けた。
「何? どうしたって?」
普段の優しそうな先輩とは思えない不機嫌そうな顔で、目がまだ半分以上塞がっている状態で先輩は出てきた。
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