走る介護師

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走る介護師

 スマホで掛けておいたアラームが振動した。時間を確認すると午前3時5分前だ。    瀬戸きわ美、22歳、介護師である。特別養護ホームに勤務している。今夜は夜勤だった。  介護師詰所の奥のドアを開くとそこは夜勤者の仮眠室だった。ベットと洗面台のある小さな穴蔵のような部屋で夜勤者は仮眠をとる。  きわ美はまだ朦朧とする意識のままベットからシーツを剥ぎ取りドアを開いた。 「お疲れさまです。替わります」  きわ美が仮眠をしている間、起きて働いていた介護師に声を掛けた。 「お疲れさま」  今夜の相方は先輩のベテラン介護師なので心強い。何かあったら頼れる。 「特にお変わりは無いです。みんな良く寝てましたよ」  先輩介護師が眠そうな瞳で、やっと眠れるという安心感からの笑顔できわ美に申し送る。 「じゃあ後お願いします。何かあったら起こしてね」  きわ美と入れ替わりに先輩介護師が仮眠室へと入って行った。それと同時にきわ美は懐中電灯とピッチを持ち、介護師詰所を出た。  これから夜間の巡視に行かなければならない。  夜間は2時間おきに施設内を巡視する。利用者さんがちゃんとベットで寝ているか、具合の悪そうな方はいないか、全員の無事を確認してまわる。自分で寝返りを打てない方には介護師が体の向きを変える『体位変換』も行わなければならない。    詰所を出ると廊下も居室も真っ暗だった。所々に非常誘導灯が薄ぼんやりと緑に光っていた。   きわ美は真っ暗な中、懐中電灯も点けず、足音を立てないように歩いた。利用者さんの目を覚ましてしまわないためだ。最初の頃は気味が悪かったので懐中電灯どころか廊下の電気を煌々と点けてまわったものだったが、すっかり慣れた今は暗くても全然平気だった。
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