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File No.004
本社に戻った比奈は、草薙と別れた。
草薙は、捕まえた弓田を連れて別室へと向かう。
これから取り調べをするからだ。
本来なら、こういうことは警察に任せるべきである。
だが、比奈や草薙が働く白井不動産は、犯罪まがいの仕事も多い。
そのため、あまり警察を頼ることができないので、こういう事態が起きると、いつも社内で片付けている。
――第三事業部へ戻った比奈。
戻っても事務所には誰もいなかった。
一応、弓田を捕らえた後に、緑川にはメールを送っておいた(電話に出なかったため)。
そして、今さっき返ってきたメールには――。
――お疲れ様!
じゃあ、あとは草薙さんに任せて、比奈くんは本社に戻ったらデータ処理をやってね~(◍>◡<◍)!
その返信を見て、比奈は憤りを覚える。
……こっちの質問スルーして絵文字つかってんじゃねぇよ。
可愛くねぇんだよ、まったく……。
比奈が怒った理由は、弓田についての質問を緑川が無視したことだった。
……メールにちゃんと書いたのに、無視するとは……あぁぁぁ!! イライラする~!!!
そして比奈は、怒りながらも無表情のままデスクに座った。
――その頃、草薙は弓田を本社の人間に引き渡し、休憩所で缶コーヒーを飲んでいた。
休憩所には、革張りのソファに簡素なテーブルがあり、飲料水やお菓子の自動販売機が並んでいる。
「あ!」
そこに三人の男が入って来た。
「草薙さん、お疲れ様です」
最初に草薙に気がついたのが、南雲凌馬――。
現在19歳。
16歳で白井不動産へ入社。
今年で3年目になる中途採用の契約社員。
タレ目でマッシュルームカット。
そして、いつも無気力な顔をしている。
「聞いたよ~。新宿へ行っても本社にいる新人の面倒見なきゃいけないなんて、正社員は大変だな。ねっ柊の兄貴!」
次に入ってきたのが、菊間幹丈――。
現在24歳。
20歳で白井不動産へ入社。
今年で4年目になる中途採用の契約社員。
適当に伸ばした顎髭に金髪で、目つきが悪い。
自分で染めているのか、髪が痛みまくっている。
「草薙のおっさんもよくやるよ。ボーナス無しで、俺らと給料が変わんないのにな」
そう言い、煙草、ハイライトを上着のポケットから出して、火をつけた男が、柊彰吾――。
現在28歳。
15歳で白井不動産へ入社。
今年で13年目になる中途採用の契約社員。
茶色の短髪に、左耳にリングのピアス。
がっちりとした骨格に、髪が短いせいか顔立ちもすっきりした感じがする。
三人とも第三事業部のメンバーだ。
「お前ら、またサボってんのか?」
草薙がそう訊くと、南雲と菊間は革張りソファに腰を下ろた。
柊は、立ったままで、持っていた空き缶を灰皿代わりにテーブルの上に置く。
「ノルマはクリアしてる。それに残業ばかりしているような輩は、会社に害をもたらす寄生虫だろ」
柊が、紫煙を吐き出しながら言った。
それを聞いた菊間が、腕を組んで頷いている。
そんな菊間を見て、南雲は少し呆れていた。
「まぁ、仕事をサボるのほどほどにな」
草薙がそういって、飲み終わった缶コーヒーをゴミ箱に捨てる。
そして休憩所を出ようとすると――。
「おっさん」
柊が呼びかけた。
「なんだぁ、柊?」
「比奈の奴が、マエガミのことを知ってるかって訊いてきたぜ」
ヒナドリとは、第三事業部での比奈のあだ名。
名付け親は柊だ。
草薙は振り返って言う。
「自分の叔父が刺されたんだ。そりゃ調べたくもなるだろう」
「それでサービス残業していいのか? 通常業務の後に毎晩遅くまで会社の資料を漁ってんぞ、あいつ」
柊の言葉に、草薙は困った顔をして返す。
「まぁ、比奈はああ見えて真面目だからな。仕事の合間にってわけにはいかないんだろうねぇ」
草薙がそういうと、呆れた様子で南雲が会話に入ってきた。
「ホント真面目ですよね。こないだなんて、「南雲くんも頑張っていればいずれ正社員になれる」とか言い出して、なに言ってんの? 感じでしたよ」
「はは、比奈らしいな」
柊がそれを聞いて笑った。
「でも、言われて悪い気はしなかったですけど……」
「ほうぉ」
南雲の話を聞いて、柊が煙を吐き出しながらニヤニヤしだした。
「柊さん、なに笑ってるんですか……」
「別に。ただ、あれだけピヨピヨうるさいって嫌ってたいたお前が、そんなことを言うなんてな~っ思ってよ」
「……からかわないでください」
南雲が小さい声で力なく言った。
「はは、若いってのはいいねぇ。じゃあ、俺は帰るわ。それと、あんまり比奈をいじめるなよ。度が過ぎると緑川の奴に骨折られるぞ」
そういって、草薙は休憩所を出て行った。
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