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「よう、おはよう神谷。今日もクマがすげえな」
翌朝の教室で、中学校で唯一の友人である本村が話しかけてきた。
僕は子供の頃から友人を作るのが苦手で、一度はいじめのターゲットになりかけたことがある。
運動はできない。かといって、まじめそうな外見をしているのに勉強もできるわけじゃない。何の取り柄もなく、気も弱い。勤勉というわけですらなく、授業中もいつも眠そうにしている。
中学一年生の時の先生から、「お前みたいに一見まじめそうに見えるやつに授業中に寝られるのが、教師ってのは一番むかつくんだぞ」と言われたことがある。
不良が堂々と寝ていても特に問題にならないのに、大人しくてまじめそうな生徒が居眠りしていると怒られるというのは、なかなか理不尽だとは思ったけれど、まあそういうものなのだろう。
そんなわけで、軽い気持ちで問題にならない程度にいじめるには、これ以上ない素材だと自分でも思う。
「うん、少しずつこの体質も直していかないと、将来困りそうだから、一応努力はしている。……ところでさ、本村」
「おう?」
「夜の三時くらいまで起きてることってある?」
「お前みたいにか? いやー、さすがに三時はねえな」
「じゃあ、三時に外を見ることもないよね?」
「ぐっすりおねむ中だわ。案外、夜更かしなら沈丁花とかがお仲間なんじゃねえの。いつも眠そうじゃん」
本村がこっそりと親指で差したのは、窓際に座っている沈丁花繭だった。
確かに、彼女はいつも教室でうつらうつらしている。僕は沈丁花とは小学校が一緒だが、当時から同じ様子だった。
長く黒い髪に肌も白いので、大人しい印象ではあるのだが、実際沈丁花がクラスメイトと談笑しているところなどは見たことがなかった。
ホームルーム前の今も、沈丁花は手にした文庫本を開きながら、ほとんど瞼を閉じていた。
余談ではあるが。――僕は彼女に、返しきれないほどの恩がある。
だから、彼女の眠り癖を揶揄する声がクラスの中で上がると、友達僅少でコミュ力ほぼゼロの僕でありながら、一応
「そういうのはやめようよオ~」「よくないよオ~」
と、場を白けさせるだけのうめき声をあげて中断させた。
沈丁花のために僕にできることといえば、それくらいしかなかった。
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