蜥蜴

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蜥蜴

「ようこそ! 待っていたよ、この『トラピスト-1d・サテライト』に君たちが来てくれるのをね!」 此処はトラピスト-1dを眼下に望む宇宙ステーション、通称・『サテライト』。 三人を出迎えてくれたのは、かつて火星地上本部で一緒だったドラムだった。 「部隊長!お久しぶりです。今はこちらで勤務でしたか」 宇宙服のヘルメットを取りながら、クラウドがドラムの差し出す握手に応じる。 「いやいや、火星基地が無くなった今では『部隊長』ではないよ。現在はこっちで観測隊の隊長という立場だ」 人懐っこい丸顔のドラムが、にこやかな笑顔を浮かべる。 「ふー‥‥ん、やっぱ『コネ』ってのは便利で良いわよねぇ。変に気を使わなくていいし」 レインが後ろで、つまらなさそうに口を尖らせる。 「まぁそう言うなって。クラウドの場合は単に『付き合いがある』というだけじゃぁ無ぇ。火星がオジャンになった時、ヤツがシャトルで地上への強行着陸を決断しなかったら、ドラムさんを含めて500名以上の隊員が火星のチリになっていたんだしよ。ま、『命の恩人』って言ってもおかしかぁ無ぇさ」 サンダーが横でレインを宥めていると。 「‥‥ところでドラム隊長。トラピスト-1dに『大型生命体が居る』というのは本当なんですか?」 突然のクラウドの質問に、ドラムの顔色が変わる。 「何処で聞いたのか知らんが‥‥此処に至って隠しても仕方ないだろうな。その通りだ。身長で言うなら2mほどの大きさをした2足歩行の『トカゲ』のような生物が居る。我々は蜥蜴人間(リザードマン)と呼んでいるがね」 一瞬だけ躊躇はしたものの。ドラムは、その事実を簡単に認めた。 「やはり‥‥! 噂は本当だったんですね!」 レインが大声を上げる。 「ああ、そうだ。君は‥‥レインと言うんだったね? 言語学が専門だとか‥‥はじめまして、私が責任者のドラムだ」 ドラムは今度も握手を求めて手を差し出したが、レインはこれを無視し、質問を続けた。 「では、そのトカゲ‥‥リザードマンが、『言語』を持っているのですか?」 「‥‥それは、分からん。何しろ現時点では、この惑星に地球のような発達した科学文明の痕跡は見当たっていないからね。しかし‥‥」 差し出した手の遣りどころに困りながら、ドラムが答える。 「テラから聞いてるよ、隊長。『巨大な建物』があるんだろ?」 サンダーが前に出てくる。 「地球で、テラ直々に『中を調べてこい』って言われたよ。テラはハッキリ言わなかったけど、なんかヤバそうなモンがあるらしいな?」 人間ではなく、ブレインに『物を言わせる』。 それは、大概にして状況がネガティブな時だ。 要するに、人が言いたくない事を機械に喋らせているのだと、クルー達は経験で知っている。 「‥‥そうだな。発見されたのは『その一棟だけ』だが、確かに建築物だ。石造りで、かなりの大きさだ。実は地上探索用の小型無人ロボットを降ろして、外壁周辺を探らせていてな‥‥ そしたら先月になって封鎖されている『入口』と思われる部分が見つかったのだ。そこで、そのロボットを使って小さな穴を掘り、超伸延マイクロスコープを使って中を観察する事に成功してね‥‥」 「な、中が見えたんですか!」 ゴクリ‥‥と、クラウドがツバを飲み込む。レインがその真横で眼を見開いて聞き入っている。 「うむ‥‥何しろたかがマイクロスコープからの映像だから、ホンの一部でしかないが‥‥信じられない光景だったよ。中にあったのは‥‥大量の『本』だ。その総数は現在算出中だが、膨大な数である事は間違いないだろう」 「本?」 サンダーが聞き返す。 「おいおい、だったらその建物とやらは『図書館』とでも言うのかよ? まったく、宇宙は広いぜ。まさか本を読むトカゲが居るとはな‥‥」 「いや‥‥それは違うんじゃないかな?」 クラウドが首を傾げる。 「もしもそのリザードマンとやらが読むための本だとしたら、入り口を封鎖する意味が分からない。中の図書を利用出来ない訳だからね」 「その通りだ。私達も同じ事を考えている。それに、その場所はリザードマンの生息域から300kmも離れているしね」 ドラムが大きく頷いた。 「その『図書館』の利用者が誰なのか、何の目的で集積された本なのか。そして何より『中に何が書かれているのか』‥‥地上に降りて、それを調べる必要があるのだよ」
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