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再会
「よぉぉ、クラウド! お前もメンバーの一員なのか? 久しぶりだなぁ! 元気にしてたかぁ!?」
アリゾナにあるフェニックス地球本部の無菌準備室に姿を現したのは、フェニックスに同期で入った『サンダー』という認識名称を持つ大男だ。
彼はクラウドに数ヶ月遅れて火星に入り、共に未曾有の危機からの生還を果たしている。謂わば『戦友』と言っていい仲だ。
「やぁサンダー、久しぶり! 一緒に行く仲間が君で嬉しいよ。同じ輸送部隊とは言っても、君はエンケラドス定期航路の配属だからね。中々顔を見ないから、会えて嬉しいよ。それで、今回はトラピストの方に?」
「がはは! まぁな。火星勤務が『無くなった』とはいえ、それでも宇宙に出てた方が性に合ってるんでね。なぁに、多少『危険』な方がスリルがあって楽しいってモンよ!」
サンダーが豪快に笑い飛ばす。
「まったく‥‥君は相変わらずだね。僕は正直言って少々胃が痛いよ。だって、いくら先遣部隊が乗り込んでいるとは言っても、彼らは『成層圏外』で観測をしているだけなんだろ?
それを『地上直接観測を行うから』って事で、僕らが選ばれたようだけど‥‥ぶっちゃけ『何で僕が?』って思ってるよ」
気心の知れた相手を目の前にして、少しは明るさを取り戻したクラウドだが。
それでも襲い来る不安は、拭い去れるものではなかった。
「さぁな。今回も人選はどうせ、人工頭脳がやってんだろ? だったらオレらが『適任者』って事じゃないのか?たまたまさ。‥‥知らないけどな」
フェニックスが管轄するブレイン・地球は、その職員の採用からミッションに対する人選に至るまで、その人事の適切性の評価を一手に担っているとされる。
フェニックスの活動に必要なのは筆記試験の結果などではなく、『組織の現場に必要とされる力量と素養を、誰が持っているのか』であり、その巨大なデータベースによるチョイスには、高い信頼が置かれているのだ。
「たまたま、ね‥‥」
そう言って、クラウドが椅子に腰掛けた時。
無菌室の扉がシュー‥‥と音を立てて開き、もうひとりの『選抜メンバー』が中に入って来た。
それは‥‥
「あらあら、『同行者、男子2名』とは聞いてたけど‥‥まさか、アンタ達だったの? これは不可抗力よね。つくづく、腐れ縁だわ」
腰に手を置いて、入ってきた若い女が二人を睨みつける。
「おぉ! 誰かと思えば!」
サンダーが女を指差す。
「久しぶりだな、レイン‥‥だったよな?お前」
『レイン』と呼ばれた女性はクラウドよりも更に小柄で、ブロンドの長髪を後ろにまとめて縛り上げている。キツく両端にハネ上がった眉毛が如何にも勝ち気な雰囲気を演出している。
「‥‥あの、誰でしたっけ?」
サンダーとは顔見知りのようだが、クラウドには見覚えがない。ただ、『雨』という気象に関するバースネームを持っているということは、同期なんだろうと推察は出来る。同期同士は同じカテゴリーでバースネームを持つからだ。
「ああ、クラウド。お前は新人訓練を初日で抜けたから覚えがなくても仕方ないかもな。‥‥名前からして分かるとは思うが、レインは同期だよ」
サンダーがレインの背中をポンと叩いて紹介する。
「‥‥ちょっと、馴れ馴れしく触らないでくれる? そうでなくても同行が男二人と聞いて滅入ってんだから」
レインがサンダーを睨みつけた。
「あ、ああ、すまねぇな。‥‥ま、仲良くやろうぜ。何しろ宇宙では『信頼』と『尊敬』が大事だからよ!」
大仰にサンダーが両手を広げる。
するとそこへ、天井のスピーカから音声が降ってきた。
《ハロー、皆さん。お揃いですか。私はテラです》
その声を聞いて、3人に緊張が走る。
普通、フェニックスの地上活動において、人工頭脳の『テラ』が直接に職員と会話をすることはない。大抵はテラの配下にいる『リッカ』というAIが対応しているのだ。
更に言えば、フェニックス全体で5体あるブレインの、その統括をしているのがテラである。言ってみれば機械側の最高指揮官と言っていい。
そのため、彼ら3人はその声を聞くことさえ初めてだった。
「テラ‥‥はじめまして」
やや緊張しながら、クラウドが挨拶をする。
《こちらこそ初めまして。3人とも今回のミッション、よく受諾してくれましたね。フェニックスを代表して、お礼と敬意を表します》
テラはブレインの中でも『最も人間に近い』と称されているが。正直、此処まで来ると恐ろしさすら感じるレベルだと、クラウドは思う。
クラウドはかつて、火星本部を統括するアカツキという名前のブレインと共に仕事をしていた事がある。その時も『人間っぽい喋り方をするな』とは思ったが、流石に此処まででは無かった。
まるで、人間の女性が喋るかのような滑らかさと安心感‥‥それが逆に、底知れぬ恐怖を覚えずには居られなかった。
《皆さんも薄々感じているかも知れませんが、今回のミッションは単なる探査ではありません》
テラは、そんなクラウドの心情を慮ることもなく淡々と説明を始める。
《今回行って頂く『トラピスト星系第4惑星d』‥‥その地表には、先遣部隊の観測によって建築物と思われる巨大な人工物が発見されています。今回、皆さんにはそれを‥‥》
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