04記憶の廃棄場
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04記憶の廃棄場

「そろそろ採点間違いについての問い合わせを打ち切ります。職員室に来ても駄目ですからね、じゃあ号令さんお願いしますっ」  号令係の言葉に合わせて、四時間目の終わりを告げるチャイムが教室に鳴り響く。ごわりと固そうな黒い髪をさっと払い、現代文の先生(あだ名はゴワ婆)は教室から出て行ってしまった。今日も相変わらずの針金ヘアーだった。あれは髪質なのか、それともそういう髪型なのか。三年生になった今でもその謎は解けない。  不意にもぞ、とズボンのポケットから振動が伝わる。メールだろうか。携帯を取り出す。「新着メール一件」という大文字が画面に表示されていた。祥護からだ。 『せんぱいへ。校門で待ってるよ☆』 「うぜえ」  あまりにも調子の軽い文面に、思わず言葉が漏れた。ため息混じりに携帯を持った手をおろす。目の前には、驚いたように目を見開く水内がいた。 「ま、まだ何もしてないんだけど」 「別にお前には言ってねえよ。……ていうか何もすんなよ」 「うそっ潤が冷たい! ちょっとどうしたんだろ、俺以外に男でも出来たのかな、なあお前はどう思うー?」  妙な早口でまくし立て、水内は近くにいたクラスメイトの肩を掴んで無理矢理話に巻き込んだ。こいつ頭おかしい。肩を掴まれた方は、適当に笑いさっさとおれ達から離れていった。 「前言撤回だー、みんな冷たい。で、他に男出来たわけ? それでそんなつれない態度を……」 「バカじゃねえの。他とか言う前にもともとそんなのいないっつうの」  大体おれは男だぞ、と反論しようかと思ったが、どうせ「愛があれば」とか語りだしてうざくなるので止めておいた。 「えー、いやいや、俺は?」  真顔で自分を指差し、水内はおれをじっと見つめた。そばかすが少し見える頬、短く整えられた髪。そこには祥護ほどの派手さはなく、裕介みたいな綺麗さもない。どちらかというと、垢抜けなくて子どもらしさの残る顔立ちだと思う。人の事を言える立場、もとい顔面ではないけれども。背もおれより高いし。 「冗談だろ?」  水内の必死な様子に笑いを堪えながら、おれは携帯をポケットにねじ込んだ。 「潤ったらつめたーい……冗談だけどさ、もうちょっと乗ってくれてもいいじゃん?」 「お前は話が長いんだよ、付き合ってらんねーの」  水内は考えるように腕を組み、やがて何かを思いついたように顔を持ち上げた。絶対良からぬことを考えているに違いない。 「わかった、ツンデレだろ」 「誰がツンデレだ。おれ用事あるからもう帰る」  ため息混じりに、水内の頭へ拳骨を軽く当てる。痛い痛いと大げさに反応をする水内。相変わらずうざい。別に嫌いなわけではないしむしろ好きだけど、何か酷い扱いをしたくなる。水内自身がもともといじられ体質なのかもしれない。 「だから、デレる日まで耐えてみせる!」 「あっそ。じゃあ、また明日な」  意気揚々と未来を夢見る水内に別れを告げ、おれは鞄を手にして教室を後にした。校門で祥護が待っている。狭間の領域。裕介。おれ。それと、これからの話をしなくてはならない。今の状況を整理するためだと思って話せばいい。別にそこまで緊張する必要ないだろ。不安を覚える心を誤魔化すように、頭で何度も「大丈夫」と唱えた。
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