05奇跡の代償
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05奇跡の代償

 ああ、やっぱりここなんだ。腕を引っ張られてたどり着いたのは、あの公園だった。祥護がしきりに辺りを見回している。  マンション「リヴェール」の一角に、おれたちは立っていた。もう黒いゲートは見当たらない。携帯に目をやる。時刻は十二時半のちょっと前。学校を出た時間とそう変わらない。太陽が真上にあり、なんとも嫌な気分だ。 「先輩、ここリヴェール?」 「そうだけど……お前知ってんのか?」  おれの言葉に、祥護がうなずく。その瞬間、けたたましいアラーム音が鳴り始めた。祥護の携帯だ。せめてマナーモードにして持ち歩いてくれ。祥護はズボンの後ろポケットから携帯を取り出すと、指をするする動かした。音はようやくぴたりと鳴り止んだ。 「もちろん。だってこのマンション、親父んだし」 「あー……」  それにどう言葉を返せっていうんだ。返しに困っていると、祥護は腕を組んで不機嫌そうな表情を見せた。 「あとー、確か初めて先輩に会ったのもここだよ?」 「そうだっけ? 覚えてねえや」  全く思い当たる節が無い。そもそも、祥護とどう会ってどういう付き合いをしてきたかもよくわからないのだ。そういえば、裕介は「昨日までいなかった」なんて言ってた気がする。いなかったとして、そんな奴とどうして知り合いなんだろう。……何だかこんがらがってきたぞ。 「まあ小さかったし、しょうがないねー。あ、ねえ先輩。先輩はさ、まだここに住んでんの?」 「え? いや、もう住んでねえけど」  おれの答えに、祥護がうーんと唸る。それから大した間を空けずに、パッと顔を持ち上げた。 「先輩ん家、ここから近い?」 「ん、十分くらいだな」 「じゃあ、今から先輩ん家行こう!」 「……はい?」  状況が飲み込めないまま祥護の顔を見上げる。祥護はお構い無しに「早く早く!」と急かしてきた。やけに乗り気な祥護の勢いに押され、おれは自分の家に向かって歩き始めた。  歩いている間、祥護はしきりに携帯をいじっていた。メールの処理だろうか。おれなんて、母さんか水内くらいから来ないのに。 「あっつー……」  汗で濡れている背中が気持ち悪かった。一歩踏み出す度に、汗が滑っているのがわかる。地面から伝わる熱も最高潮だし。夏場の早帰りは地獄に放り出されるようなもんだ。唯一の救いは、学校よりリヴェールの方が家にちょっと近いくらいか。 「先輩暑いの嫌いなんだー? 祭とか花火とか海とかさー、やること沢山あるし俺は夏大好きだよ」 「あっそ……」  前髪がおでこに張り付くし、眼鏡はやたらずれるし。夏の何がいいんだか。心の中で夏への悪態をついている内に、おれは自宅前に辿り着いた。自転車は停めてあるし、どうやら母さんは家にいるらしい。 「おじゃましまーす!」  玄関を開けようとした瞬間、意気揚々と祥護がおれの横を通り過ぎた。確か狭間の領域でもこんな光景見たような。どこ行ってもこんな感じなのか、こいつ。玄関の扉を勝手に開けると、祥護はずんずんおれの家に入っていった。